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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
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7.雇用保険事件

社長の自宅の二階で整体治療院を開いたジュンちゃんのダンナの日出夫。その隣の部屋は、ほほえみ社長の事務所。

どういう訳がこの二人は、会った時からひどく気が合った。


日出夫が整体院を開業してから社長は毎日のようにそこに入り浸り、二人で夢の話をしている。

「将来はここのベッドを増やし、他の人を雇ってもつと手広くやりたい」

とか

「三宅島にあるリゾートホテルに置く水槽をどうするか」

とか社長が言うと、日出夫は

「じゃあ、僕は板前になってそのリゾートホテルで魚料理を出しましょうか」

 と、さらに話を拡大させる。日出夫は整体をやりたいのか板前になりたいのか、聞いているこっちとしては訳が分からない。


社長は毎日のようにそこでおしゃべりしているが、一向に私たちの雇用保険の手続きをしようとはしない。

「社長、雇用保険の話ですが」

言いに行くと

「ああ、そうでした。でも今日は午後から用があって出かけるから」

「今日中にやらなければならない仕事があるから」

などと言いながら、なかなか腰を上げようとしない。


「このまま社長をアテにしてもラチがあかない。私、自分でハローワークに行って手続きしてくるから敬子ちゃん、ここの仕事を頼む」

ごうを煮やしたジュンちゃんは、自分で雇用保険加入の手続きをすることにした。

「行ってらっしゃい。私はここで一人で頑張るからよろしく」

そう言ってジュンちゃんを送り出した。


しばらくすると、ハローワークに行ったジュンちゃんから電話がかかってきた。

「今、ハローワークで手続きしているところ。ちゃんと毎日勤務しているという証拠にタイムカードをファックスしてくれる」

「了解、すぐに送るから」

その時、ちょうど患者さんが処方箋を持って入ってきた。一人で大急ぎで薬を作り、私とジュンちゃんのタイムカードをファックスした。その後、再び電話。

「ダンナのタイムカードも送って」

さすが、ジュンちゃんはダンナの雇用保険の手続きまで抜かりない。

私は大急ぎで次に来た患者さんの子供二人分のシロップの薬を作ってお母さんに渡すと、二階へ駆け上がった。日出夫のタイムカードをもらうと、それをハローワークにファックスした。


ジュンちゃんが戻ると、二人で社長に報告。

「社長、自分達でハローワークに行って手続きしてきました。これで雇用保険も大丈夫です」

社長はにこにこして

「いやあ、わざわざありがとうございます。すみませんねえ。なかなか手が回らなくて。いろいろと大変な思いをさせてしまって」

忙しいはずなのに、なぜかまだ整体院で日出夫を相手に夢を語り続けていた社長が、ぺこりと頭を下げた。

こちらが朝から二人で走り回ってバタバタしていたのに、社長ののんびりした態度にムッとしたのが顔に出たのだろう。社長がちょっと言い訳をした。

「まあ、敬子さんたちにはいいろ苦労させて申し訳ないです。でも将来敬子さんが自分で店を経営したりする時には、今の経験がとても良い勉強になっていますよ」

社長は無邪気に微笑んだ。


あれから何年もたった今、確かにあの当時の出来事の一つ一つが良い経験となって役に立っている。

しかし何年も後ではなくそれを聞いた瞬間、私は思った。

「テメーに言われたくねぇ! 」

そう思ったことが、今でも私のプライドになっている。


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