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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
32/54

32.ロゼックス事件

夜が明けて月が替わった。

同じ場所の同じ薬局に通勤したが、今日からはABC薬局の社員である。これで給料は毎月きちんと入る。借金の取り立ての電話を受けたり、電話料金の支払いの心配をすることもない。ただ薬局の通常業務だけをやればよい。

なんて楽な仕事なのだろう。

しかし、この話はまだまだ終わらない。


その日は晴れ晴れと出勤した。

もう、夢野薬局の会社ではなくなるのだから、社長は今までそこに置いてあったいくつかの備品を回収し、二階の事務所に運んでいった。


その中で特に印象に残ったのが、ロゼックスである。いわゆるFAX機能の付いたコピー機である。これは社長が不動産で利益を上げていたバブルの時期に、レンタルしたものらしい。立って書類を扱うとちょうどよい位の高さで、必要以上にいろいろな機能が付いている。

毎月ロゼックスから電話がかかってきて

「今月のカウンターの数を教えください」

と、問い合わせがある。そのカウンターの使用量によって、毎月のレンタル料が決まるのである。

当然、他の借金同様に支払いをしているはずがない。きっとここでもモップのダスコンのように、カウンターの数を聞く係と集金の係との連絡がうまくいっていなくて『払わない者勝ち』となっているのだろう。


そのロゼックス社のFAX&コピー機。

「これはウチのですから」

と、ほほえみ社長が主張した。

「どうぞ、持っていってください」

ABCとしては、すでにポータブルの小型で中古のFAXを持参していた。

とは言っても、このロゼックス。試しに私が押してみたが、ビクともしない。相当の重さである。


そのFAXが

朝、出勤したら消えていた。

今までの経緯から言って、当然二階にある事務所に運んでいったことは想像できる。しかし、ここで考えられる人物は

   ほほえみ社長……六十歳過ぎ、痛風持ち

   ジュンちゃんのダンナの日出夫……四十代。やせ型。

   社長の奥様……もちろん若くない

   社長のお嬢さん……若いが女。社長には、普段から非協力的

この、体力的にあまり期待できない人たちで、どうやってあれほどの重さの機械を、エレベーターの無い二階まで運んだのであろう。その謎はいまだに分からない。人間は欲があると、意外な力を発揮するものなのかもしれない。


しばらくして、ロゼックス社からいつもの電話がかかってきた。

「ロゼックスです。コピー機のカウンターを教えてください」

「ここは、今は別の会社に変わりました。コピー機はどこにあるか分かりません」

(多分、二階の事務所にあると思うが)

電話はそれっきりかかってこなかった。


またもや社長の

『払わない者勝ち』

となったのだろうか。



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