31.ジュンちゃんとの最後の晩餐
夢野薬局最後の日、店の残務を済ませてシャッターを閉めると、せっかくなのでジュンちゃんと私はその日は一緒に食事をして帰ることにした。
食事と言っても、駅前のファミリーレストランである。
明日からジュンちゃんは前の職場に戻り、私は同じ薬局ではあるけれど、今度はABCというチェーン店の社員になるわけだ。ジュンちゃんのダンナの日出夫は、もう少しあそこで整体院を続けることになっている。
「もう、あとは勝手に一人でやってもらう」
そう、もともとあそこは手伝いに行く必要などなかったのだ。将来もっとお客さんが増えて、忙しくなって売り上げも増えてきたら、自分の稼ぎでまかなえる分の従業員を雇えばよかったのだ。
薬局にしても同様である。
初めから二人の薬剤師など必要なかった。まず一人を雇い、それでまかなえない分の仕事は社長がやればよかった。もちろん素人の社長が手を出してはいけない仕事はたくさんある。だがコンピューターを入力するとか、レセプトをまとめるなどの事務仕事は、社長が勉強して覚えればできること。徹夜してでも社長がそれをやれば、人件費は今の半分で済み、十分採算がとれたはずだった。なのに、ついに社長は最後まで何一つ薬局の仕事には手を出さなかった。
もともと不動産の取引で一度に何億というお金を動かしていた社長にとって、一円二円の差を計算してコツコツ積み重ねていく仕事は、初めから無理だったのだ。
「この一円が重くって」
鉄板に乗ったハンバーグを切りながら、ジュンちゃんが言った。
未払いの給料の一部として、ジュンちゃんは最後に残ったつり銭用のお金を全部持って帰って良い、という取り決めになっていた。
百円玉の棒二本で一万円
五十円の棒一本で千円
十円の棒二本で千円
五円玉、一円玉が少し。
これだけを一度に持って帰ると、かなりの重さである。
ジュンちゃんはあの後、その小銭をどうやって使ったのだろう。




