30.社員は悪くありません
薬局の売却が決まると、社長は早々にジュンちゃんと私を事務所に呼んだ。
「ここはABC薬局に売りました。来月で解雇します。ちゃんと言いました。私も最近はこういうことに詳しくなってきて、一か月前に解雇と言えばいいんですよ」
それは、いつもの他人を欺くための天性のほほえみではなく、面倒なことが無くなって本当に心から喜んでいる笑顔だった。
もう、私もジュンちゃんも次の就職が決まっていて、この社長には見切りをつけていたので、特に言うことは無かった。
「こんな簡単なものなのか」
素直な感想だった。
以前、大きな証券会社が倒産した時
「社員は悪くありません。社長の私が悪いのです」
と、涙ながらに記者会見していた社長がいた。そういう社長がいるというだけで、こちらから見るとうらやましい。
もっとも涙の記者会見などしなくても
「社員は悪くない。社長が悪い」
と誰もが思っているのだから、今さら社長の涙など必要ない。
あとは未払いの清算である。
ダンディーのいる大口の問屋への支払いは無理として、その他の会社との小さな支払いは、毎日のレジの売り上げを貯めて清算した。
自分たちの給料の未払分については、社長と取り決めをした。
まず、私の給料を先に払う。
ジュンちゃんの分は、責任者として待ってもらう。そのかわり、保険請求したレセプトの入金があと三か月くらい、社長の銀行口座に毎月振り込まれる。ジュンちゃんが社長の預金通帳と印鑑を預かり、毎月そこに振り込まれた分を給料としてもらう。全ての給料の未払分を受け取ったら、ジュンちゃんが社長に通帳と印鑑をお返しする。
三人はこれで合意した。
私の方が先に給料をもらうことができた。これは、いざという時は責任者がリスクを負うものだから。
その時はそう思っていた。
しかしそれは地位の差ではなく『借金の取り立ては強く言った者勝ち』という理論からだった。
それは後日知ることになる。




