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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
28/54

28.自分が売られていた!

また新しい登場人物が増える。


ある時、薬局に二人の男が訪ねてきた。

すでに就職の決まった薬局長のジュンちゃんより、むしろ私に対して二人は名刺を出した。

   ABC薬局

    ケータイ部長

    くらげ課長


ケータイ部長は、芸能人で言えば出川哲郎のような人。声が大きくてエネルギッシュである。ほぼ五分おきくらいに携帯電話が鳴り、大きな声で何やらやりとりをしている。余程仕事が忙しいのだろう。

対してくらげ係長は、話し方もぼそっとしていて、しかもまとまりの無い話し方なので、聞いていてなかなか要領がつかめない。


最初にケータイ部長が元気に口を開いた。

「我々は関東地方に何店舗かの薬局を持ち、年商何億という安定した企業です。今度、ダンディー黒岩さんの紹介で、夢野社長さんから、ここの薬局を売っていただくことになりました。社長さんはこの業界には詳しくなくて、いろいろ苦労されていたようですが、私たちにお任せください。我々は専門家ですのでもう少しここのシステムを改め、ドクターにもお願いして処方箋を出してもらうようにしますから。これだけ恵まれた立地ならば、すぐに起動に乗るでしょう」


ああ、そうですか。どうぞご自由に。

ケータイ部長の声の大きさに少し疲れてしまった。では、そのお金で私の給料の未払分をもらうことができて、誰かがここを引き継いでいくのだろう。なかなか大変な場所だが。


「あ、次は僕が話しますから」

ぼそぼそしたくらげ課長に説明が変わった。耳がわんわんした後、急に聞こえにくくなってしまった。

「それで、夢野社長さんとウチの会社とで決めたことなのですが、業務の引継ぎと言ってもやはり手続きの都合上、すぐにと言うのは、ちょっと無理があるのです。そこで」

当然のように続けた。

「それで来月一か月間はジュンさんが辞めた後、敬子さんにここで一人で働いてもらいます。代わりに敬子さんのその月の給料は、わが社で保証します。その一か月間で、わが社で引継ぎの準備をする、ということになりました。なので敬子さん、よろしくお願いします」


何だって!!!

本人である私を抜きにして、社長、このABC会社、ダンディー黒岩の間で私を勝手に売り買いしていたのか!

ましてやちゃんと身分が保証されているようでありながら、今まで二人でやっていた仕事を同じ給料で一人でやらせるのか!

冗談じゃない!


二人が帰ると同時に、私はこの取り決めの黒幕である問屋の営業所に電話をかけた。

「ダンディー黒岩さんをお願いします」

黒岩に変わると同時に、私はマシンガンのように怒鳴りつけた。そこには営業所の所長という、社会的地位にある人に対する敬意など、微塵もなかった。

「なんで私を抜きにして、勝手に人の売り買いなどをしている。私はあの貧乏神の会社であと一か月間、一人で働く気など毛頭無い。そっちが勝手に決めたことに対して、従うつもりは無い。馬鹿にするんじゃねえ! 」


ダンディーは一言も言い返さず

「はい、はい」

と答えただけだった。


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