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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
27/54

27.戦友

「私も、まさかこんなに働くことになるとは思わなかったの」

ジュンちゃんは、しみじみと言った。


ジュンちゃんは仕事熱心で、よく働いている。休みの日にはせっせと勉強会へ行き、薬局製剤についての技術を磨いている。しかし決して仕事人間というわけではない。

むしろ家庭的な性格で、専業主婦として家事と子育てをしている方が合っているようにみえる。ジュンちゃんも大学を卒業してすぐの頃は、そのつもりで働いていた。


そしてある時期、病気になった。

今は元気に働いているが、当時は治療のための副作用でかなり苦しんでいたそうである。

その頃のある朝のこと。

ジュンちゃんはダンナと二人で会社に行くために家を出た。駅で別々の路線に乗るために別れようとした時、無意識でそうなってしまったとのこと。いきなりジュンちゃんが涙を流し

「人間って、なんで生きていかなくちゃいけないんだろう」

と、ボソッとつぶやいた。今、別れたばかりのダンナがあわてて引き返し、その後電車を二本見送って側にいてくれたとのこと。

そうやって少しずつ励まされて、ジュンちゃんは回復していき、その時期を乗り越えることができた。


子供を産み、育てて温かい家庭を作るという生き方もあるが、それができないならば自分を磨いて、仕事の中で新しい自分の生き方を切り開いていこうと、気持ちを切り替えていったのだった。


私がジュンちゃんと出会ったのも、そんなどん底の時期だった。

ジュンちゃんとは、ただ薬剤師同士というだけの繋がりではない。私もたまたまジュンちゃんと同じ病気で苦しんでいた。生きるか死ぬかというほどの同じ悩みを共有していた戦友で、それがたまたま二人とも薬剤師だった。

当時、私はジュンちゃんに病気の悩みを打ち明けることによって、どれだけ心が救われたか分からない。私はジュンちゃんによって、どん底の時期を支えられた。

ジュンちゃんにとっては、昔も今もそしてこれからも、つらい時期に一番支えてくれたのはダンナの日出夫である。


この薬局に来て、私は日出夫に対してだんだん良いイメージを持たないようになってきていた。

私にとっては、日出夫の一番悪い時期だけを見ていた。

しかしジュンちゃんにとっては、さまざまな時期があり、その全体を見ての日出夫なのだ。

「今は何もしないで遊んでいるように見えるけれど、会社に勤めていた頃は夜中まで、

本当に倒れる寸前まで働いていたの。だから今は、ゆっくり休む時期だと思っているの」


支える時期と支えられる時期。

夫婦の距離と、戦友としての、そこまでの距離。



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