選ぶ楽しみ
トマスへの手紙を預けた帰り、エドガーは鍛冶屋へ寄った。
ひびの入った矢から外した鏃を、使えるか見てもらうためだった。
店の奥では、槌を打つ音が続いていた。入口に近い作業台には、修理を待つ鎌や斧が並んでいる。
声をかけると、職人が手を止めた。
「今日は何だ」
「鏃を二つ。片方は曲がってる」
「置いてくれ」
布を開くと、職人は一つずつ拾い、窓の光へかざした。
「こっちは直せる。もう一つも、まだ使えるな。急ぐか?」
「いや。出来たら矢の店へ持っていく」
「じゃあ、三日後に来い」
話を終えたところで、奥の棚からレオンが顔を出した。
「あれ、エドガーさん」
「ここにいたのか」
レオンは鞘に収まった剣を一本持っていた。
今朝、買い物に出るとは聞いていたが、行き先までは尋ねていなかった。
「例の剣か?」
「はい。見せてもらってます」
職人が顎で店の脇を示した。
「振るなら裏だ。そこじゃ物に当たる」
「分かりました」
レオンは剣を両手で持ち直し、エドガーを見た。
「少し、見てもらってもいいですか」
「俺でよければな」
*
裏庭には、薪と古い鉄材が壁際へ寄せてあった。
レオンは周囲を確かめてから剣を抜いた。
今の剣と長さは大きく変わらない。ただ、柄の形と刃の幅が少し違っていた。
ゆっくり構え、何度か振る。
エドガーは離れた所から見ていた。
レオンは途中で手を止め、握り直した。
「持った時はよかったんですけど」
「振ると違うか」
「少し。戻す時に、こっちへ引かれる感じがします」
レオンは刃先を下げた。
エドガーが手を出すと、柄を向けて渡してくる。
受け取った剣には、確かに先の方へ重さがあった。
自分なら生成する時に変えてしまう程度の違いだが、買った剣ではそうはいかない。
「今のより、先が重いな」
「慣れれば使えるとは思うんです」
「慣れたいか?」
「……そこですよね」
レオンは笑った。
「見た目は、こっちが好きなんですけど」
飾りの少ない剣だったが、柄頭と鍔の形が揃っていて、すっきりしていた。
エドガーは返しながら言った。
「気に入ってるなら、それも理由だろ」
「使いにくくても?」
「使えんほどじゃないんだろう。ただ、値段を払ってから後悔するなよ」
レオンはもう一度構えた。
今度は短剣も抜き、いつもの形で立つ。
数度動かした後、首を傾げた。
「もう一本の方も、持ってきます」
*
二本目は、最初の物より地味だった。
レオンは同じように振り、短剣との間合いも確かめた。
今度は、途中で握り直さなかった。
「こっちの方が戻しやすいです」
「見てても、そうだな」
レオンは刃を眺め、惜しそうに最初の剣へ目を向けた。
「柄だけ、あっちに出来ればいいのに」
「出来るぞ」
後ろから職人が言った。
いつの間にか、戸口に立っていた。
「ただし、同じ重さになるとは限らん。握りも変わる。形が気に入ったんなら、どこがいいのか言ってみろ」
レオンは二本を並べ、鍔と柄頭を指した。
職人は話を聞き、柄を握らせて手の収まりを見た。
そのやり取りを眺めながら、エドガーは店先で待つことにした。
自分が口を出すより、作る人間と使う人間が話す方が早かった。
*
しばらくして、レオンが出てきた。
手に剣は持っていない。
「買わなかったのか」
「今日は。作り直す場合の値段も聞いたので、少し考えます」
通りへ出ると、炉の熱が背中から離れた。
レオンは腰の剣へ手を置いた。
「今のも、まだ使えますし」
「ああ」
「でも、持ち比べると違いますね。次はこういうのが欲しいって、前より分かりました」
エドガーは頷いた。
レオンは買わずに出てきた割に、楽しそうだった。
「エドガーさんは、武器を買う時に迷います?」
「弩は迷ったな」
「今のですか?」
「ああ。引きやすさと、持って歩く重さだ。店の中で持つのと、一日担ぐのは違うからな」
それは本当だった。
人前で使う物だからこそ、見た目だけで選ぶわけにはいかなかった。
「もっと大きい物もあったんですか」
「あった。威力は出るが、毎回それを持ち歩きたくはなかった」
「なるほど」
レオンは歩きながら、自分の剣をもう一度見た。
「次は、ちゃんと長く使いたいですね」
*
ギルドの前まで戻ると、入口でガレスと鉢合わせた。
肩に荷物を掛け、これから出るところらしい。
「二人とも暇か?」
「今はな」
「なら、ちょっと付き合ってくれ。依頼の話だ」
案内された卓には、三人の冒険者が座っていた。
先に立ったのは、槍を壁へ立てかけていた男だった。
「エドガー。久しぶりだな」
「ベルトか。戻ってたのか」
「昨日な」
街で何度か仕事を一緒にした相手だった。
ベルトはレオンへ向き直り、名を告げた。
レオンも挨拶を返す。
「こっちはニーナ。魔法と、うちの財布を見てる」
「財布は各自で見て。共用分を数えてるだけ」
小柄な女性が、卓上の帳面から顔を上げた。
小人族のニーナは、椅子に座ったまま二人へ軽く会釈した。
「それで、セドリック」
最後に紹介されたエルフの男は、空いた椅子を引いた。
足元には盾が置かれている。
「座って。立ったまま話すほど、短く済まないと思うから」
エドガーは腰を下ろした。
レオンも隣へ座る。
ガレスは依頼書を卓へ置いた。
「北の古い貯木場だ。材を引き揚げたいが、周りに魔物が出る。作業の間、人数が要る」
ベルトが頷いた。
「俺たち三人で受けるつもりだったんだが、場所が二つに分かれててな。一度に見るには手が足りない」
「それで、人数を増やせないかって話を持ってきたわけ」
ニーナが付け加えた。
依頼書には、作業人数と荷車の台数が書き足されていた。
エドガーは紙を引き寄せる。
まだ受けると決めたわけではない。
まずは、何をどこまで頼まれるのかだった。
「ガレスたちは?」
「別の仕事がある。俺は紹介だけだ」
ガレスはベルトの肩を叩いた。
「こいつ、人数が足りなくても何とか出来ないか考え始めるからな。先に声をかけさせた」
「今回はちゃんと相談してるだろ」
「ニーナに止められてからだろうが」
「止めたんじゃなくて、数え直してもらったの」
ニーナが帳面を閉じた。
セドリックは慣れた様子で、地図を広げていた。
*
貯木場は街から一日ほどの場所にあった。
古い作業小屋と、川に近い材の置き場が離れている。荷を運ぶ者たちが、その間を行き来する仕事だった。
「魔物の種類は?」
「牙犬の目撃がある。それと、材の下に何か入り込んでるらしい。ただ、そっちは姿を見てない」
ベルトが答えた。
レオンが地図へ目を落とした。
「作業を始める前に、材の周りを調べる時間は取れますか」
「半日見てる」
「そこで危ない物が見つかったら?」
「作業は始めさせない。追加で人を呼ぶか、依頼を変えてもらう」
エドガーは地図の二つの印を見た。
銃を使えるなら、調査も討伐もやり方は変わる。
だが、今回は作業員がいる。荷車が出入りし、ほかの冒険者も動く。
最初から、弩で果たせる役割を考える仕事だった。
「人を二手に分けるなら、合図を決めておきたいな」
「そこも相談したかった」
セドリックが言った。
「声が届きにくいから、笛を使うつもりなんだけど」
エドガーは頷き、隣のレオンを見た。
レオンは地図を見ながら、材を運ぶ道の幅を尋ねていた。
前へ出て戦う話だけでなく、作業する者がどこを通るかも確かめている。
エドガーは口を挟まず、答えを一緒に聞いた。
やがて話が一区切りつくと、ベルトが尋ねた。
「どうだ。二人とも、予定は空いてるか?」
レオンがこちらを向いた。
エドガーは日程の欄を確かめ、頷いた。
「俺は空いてる」
「こちらもです」
「じゃあ、条件を詰めよう」
ニーナが帳面を開き直した。
報酬と日数、必要な持ち物。
レオンが椅子を少し寄せ、エドガーも卓の地図を広げ直した。




