↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
28/91

一度、組んでみる

 レオンと暮らし始めてから、四日が過ぎた。


 朝食を一緒に取る日もあれば、片方が先に出る日もあった。食器の置き場所を二度ほど聞かれ、薪を割る斧の場所は一度で覚えた。


 今のところ、困ることはなかった。


 その日は、エドガーが先に家を出た。


 短い護衛の報酬を受け取り、ギルドの掲示板を眺める。荷馬車で二日先の町まで行く仕事があったが、出発は明後日だった。


 人数の欄へ目を移したところで、横から声がした。


「エドガーさん、明日は空いてますか?」


 レオンだった。手には一枚の依頼書を持っている。


「今のところはな」

「これ、一緒にどうかと思って」


 差し出された紙を受け取る。


 西の街道から枝道へ入った先にある、粉挽き場からの依頼だった。


 穀物を運ぶ道で魔物が目撃され、配達の荷車が引き返している。対象は牙犬。報酬は討伐と周辺の確認を含めた額で、二人以上での受注が条件になっていた。


「何頭だ?」

「一度に見たのは三頭です。昨日の昼に、粉挽き場の使いが届けたそうです」


 レオンは受付の方を指した。


「詳しい話はマルクさんが。受ける前に、エドガーさんの予定を聞こうと思って」


 エドガーは紙へ目を戻した。


 牙犬は、大きな犬に似た魔物だった。顎が太く、口を閉じても長い犬歯の先が見える。


 一頭ずつなら、それほど厄介ではない。


 ただ、群れで左右に分かれて近づいてくる。正面の一頭だけを追えば、別の一頭に脚を狙われる。


「やったことは?」

「あります。前の二人と、何度か」

「この辺で?」

「いえ、別の街です。ここへ行くのは初めてです」


 エドガーは依頼書に書かれた道順を確かめた。


 粉挽き場には行ったことがある。川沿いの道は荷車が通れる幅があるが、途中で林に接する。


 魔物が居着けば、粉挽き場と畑の間を行き来する者には困りものだった。


「話を聞くか」


 レオンが頷いた。


     *


 受付のマルクは、依頼書を見ると奥の棚から書き付けを出した。


「その仕事ですね。二人で?」


「まだ決めてない。目撃の場所を聞きたい」

「粉挽き場へ向かう枝道です。西の街道から入って、徒歩で半刻ほどの辺り。荷車の前へ出てきたので、御者が引き返しています」


 マルクは卓に略図を広げた。


 街道から分かれた道が、川に沿って曲がっている。その先に粉挽き場の印があった。


「人の怪我は?」

「報告ではありません。今は荷を運ぶのを止めて、粉挽き場にいる者もまとまって外へ出るようにしています」


 エドガーは曲がり角を指した。


「ここから先は、まだ見てないんだな」

「ええ。三頭より多い可能性はあります」


 隣でレオンが身を寄せた。


「粉挽き場までは、反対側から回れますか?」

「上流の橋を使えば。ただ、徒歩で一刻ほど余計にかかります」

「なら、そっちから先に話を聞けますね」


 エドガーは頷いた。


 使いが戻ってから、新しい目撃があるかもしれない。現場へ入る前に、粉挽き場で確かめておきたかった。


「寝る場所は借りられるか」

「作業小屋を空けるそうです。食事は持参でお願いします」


 朝に出て、迂回して粉挽き場へ着くのが昼前。


 話を聞いて周囲を歩けば、その日のうちに討伐まで終わるとは限らない。片づいても、処理を急いで街へ戻るつもりはなかった。


 レオンが略図から顔を上げた。


「一泊で考えて、食料は余分に持っていきましょうか」

「ああ。明日のうちに見つからなければ、翌朝も見られる」


 マルクは二人を見た。


「受けますか?」


 エドガーはもう一度、依頼書の報酬を見た。


 二人で分け、食料と消耗品を差し引いても、悪くはない。


 弩で十分に対処できる相手でもある。


「俺はいい。お前は?」

「お願いします」


 エドガーは依頼書を受付へ戻した。


「じゃあ、二人で」


     *


 手続きを済ませて外へ出ると、レオンは通りの端で立ち止まった。


「報酬は半分ずつでいいですか。共用で買う物は、先にそこから引いて」

「ああ。道具を壊した時は、その時に話そう」

「分かりました」


 話は早かった。


 エドガーは道の向こうの食料品店へ目をやった。


「買い出しに行くか」

「はい。家の豆、旅用に少し持っていってもいいですか?」

「煮てある分なら今夜で食べきるぞ。明日持っていく分は別にしよう」

「じゃあ、干し肉も買います」


 店では日持ちのするパンと干し肉を選び、塩の残りも確かめた。


 レオンは必要な量を数え、二つに分けて包んでもらった。


 五年、冒険者を続けてきたという話だった。


 こういう支度を見ていると、それはよく分かった。エドガーが口を出す前に済んでいることも多い。


 店を出てから、レオンが言った。


「一度、組んでみたかったんです」

「そうなのか」

「はい。トマスさんから、何度か仕事の話を聞いてたので」


 エドガーは包みを持ち直した。


「余計なことを言ってなければいいが」

「無理な時は、ちゃんと無理だと言ってくれるって」

「それなら間違ってない」


 レオンは笑った。


「今回も、一人で行くなら別の仕事にするつもりでした。横から来る相手を一人で見るのは、面倒なので」

「面倒で済めばいいがな」

「ええ。噛まれたくはないです」


 そう言って、レオンは自分の脚へ目を落とした。


 誘いを受けた時より、エドガーは少し気が楽になっていた。


     *


 家へ戻り、昼を済ませてから荷物を広げた。


 縄はエドガーが持ち、レオンは小鍋を出した。


 灯りと火口、傷の手当てに使う布。互いの持ち物を確かめ、同じ物を余分に詰めすぎないように分ける。


 エドガーの荷物は、一人で出る時より少し増えた。


 普段なら現地で作る刃物も、買った物を持っていく。弩の矢も、数をそろえた。


 レオンは鞘から剣を抜き、刃を窓の光へかざしていた。


 続いて短剣を確かめる。


「戦う時は、両方抜くのか」


 エドガーが聞くと、レオンは顔を上げた。


「相手によります。牙犬なら、近づかれた時に短剣も使います」

「分かった。射る時に、お前がどっちへ動くか知っておきたい」

「普段は、相手の正面から少し外れます。弩は、最初に撃ちますか?」

「狙える場所ならな。その後は、お前の位置を見て決める」


 レオンは剣を鞘へ戻し、卓の上の空いたところを指した。


「逃げる相手を追う時は、先に声をかけます」

「林へ入ったら止まってくれ。見えなくなると援護できん」

「はい。追うより、残った方を先にしましょう」


 エドガーは頷いた。


 話しておきたいことは、ほかにもあった。


 だが、ここで動きの全てを決められるわけではない。実際の道幅も、足場も、明日見てからだった。


「どっちかが下がれと言ったら、いったん下がる。それでいいか」

「いいです」


 レオンも、今度は迷わず頷いた。


     *


 支度を終える頃には、庭の半分が日陰に入っていた。


 レオンは作りかけの椅子に掛けた布を直し、飛ばないよう端を留めて戻ってきた。


「明日は、明るくなったら出ます?」

「ああ。門を出る前に水を満たしていこう」

「朝はパンと、残ってるチーズでいいですね」

「それで十分だ」


 エドガーは戸口の脇へ背負い袋を置いた。


 その隣に、レオンの荷物が並ぶ。


 誰かと仕事をすること自体は、珍しくない。トマスとも、ガレスたちとも組んできた。


 ただ、待ち合わせの場所を決めずに支度が終わるのは、少し妙な感じがした。


 明日は同じ家から出る。


 エドガーは二人分の荷物を見てから、台所へ向かった。


「豆、温めるぞ」

「皿を出します」


 レオンが食器棚を開けた。


 もう、置き場所は聞かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。