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出戻り令嬢は無愛想博士と語りたい  作者: 小埜我生


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さらば故郷

数年ぶりの実家。懐かしさはあまりなかった。

前回来たのは弟の結婚のときだっただろうか。

妹も既に嫁いでいる。

昔より少し静かなのかもしれない。


玄関に馬車がつけられ扉を開けたのは私が産まれる前から我が家に仕える家令のロバートと侍女長のマリー。

二人は嬉しそうに私を迎えてくれた。


「「お帰りなさいませアエミリア様」」


「ただいま二人とも」

二人の顔を見るとホッとした。

幼い頃から周囲に馴染めず一人の世界に籠もりがちな私をまるで孫のように接してくれた。もちろん主従の境界は越えず、ただ側で見守ってくれた。


使用人達が私の部屋に荷物を運んでいる。

私の部屋は、かつて研究もしていたため母屋でなく離れにある。

改修した母屋より少し古いが家族を気にしないで作業できる自室は気に入っていた。

両親も家族の輪に加わらない私が視界に入らないのは気分が良かったのか離れに移ってからはより溝が深まっていった気がする。

まぁ、私自身に寄り添う気がないから自業自得だと思うけれど。


「・・・お父様は書斎かしら?」

ロバートに父の所在を尋ねた。


「はい、向かわれますか?」


「そうするわ」


「かしこまりました。先にお伝えして参ります」

彼は、一礼すると父の元へ向かった。


両親に今日戻ってくる事は手紙で伝えていた。

弟夫婦は現在仕事の関係で王都にいるらしい。

そして出迎えてくれたのはロバートとマリー、そして荷物を運ぶ為の使用人だけ。

私は小さく息を吐いて父のいる書斎に向かった。


書斎に通され、私は来客用の椅子に座った。

父は書類に目を通していたが私が来たことで一旦止めてこちらに視線を向けた。


「よくも帰って来れたものだな」

第一声はとても冷ややかなものだった。


「・・・申し訳ございません」


「お前は地味だから外に女を作るのは仕方ないとしても子まで拵えさせるとは・・・はぁ、その上離縁とは」

恥知らず。父の視線はそう語っていた。

白い結婚だから仕方ないじゃないかと言えればとも思うがさらに父が不機嫌になる未来しか見えない。


「申し訳ございません」

私は、再度頭を下げた。

そこからはひたすらグチグチと懐かしささえあるお小言。

女なら淑女なら。

ひたすら聞きに徹した。


父にとって私の意見などいらない。

絶対である自身の言葉に従わせるだけ。


「ふぅ、、、まぁ、もうお前に期待はしない。あちらとは私が話をつける。話がつき次第お前は家から出ていけ。多少の金は渡すがそれ以降我が家に迷惑をかけるなよ」

つまり絶縁ということだろう。


「・・・承知いたしました」


「ではさっさとここから出ていけ」

父は再び書類に視線を戻した。


「失礼いたします」

私は一礼し、退出した。

出た先にはたまたまなのか母がいた。


「お母さ「話しかけないでちょうだい!」

そう言うと母は、踵を返してその場をあとにした。

私は、ただその背に頭を下げた。


我が家とノイエル家の話が終わったのは半月後だった。

思っていたより早かったがどうやら向こうが優位に話がついてしまったようで父は何度か私を呼び、叱責した。


「お前が至らないせいだ」


「家に不利益を被らせるなんて貴族としても女としても失格だ」


「頭が良いとおだてられて調子に乗っていたんじゃないか」


「お前なんて何も残せない出来損ないだ」

私は雨のように浴びせられる言葉をただひたすらその身に受ける。



「今まで育てていただいて感謝いたします。お役に立てず申し訳ありませんでした」

離縁から一月に迫る頃、私はスヴァーロ家を追い出された。

両親は当然見送ってなどくれない。

書斎の父にだけ最後の挨拶をしたが返事はなかった。

母は眼前に私がいることさえ拒否していたので挨拶はやめた。


ロバートとマリーだけが見送ってくれた。

二人とも悲しそうに心配そうにしていて、マリーに至ってはうるうると涙を溢していた。


「二人とも心配しないで、恩師に仕事を紹介していただいたから落ち着いたら手紙を書くわ」

そうして私は家をあとにした。

私の手に持てる限界の重さの鞄。

それだけが私の荷物だった。


鞄から一枚の手紙を取り出し歩きながらもう一度確認する。

送り主はマゼータとある。

そう、私の先程言っていた恩師というのはマゼータ先生のこと。


かつて学園で何かと気にかけてくれていた先生に家を出た後のことを相談していた。

さすがに今更研究所を紹介してなんて言えません。

それに結婚時に研究していた資料のほとんどはノイエル家から持ち出しを断られたため見せれる何かもない。

ただ貴族だった私がいきなり仕事を市井で見つけるのが厳しいのは分かりきっている。


両親がそういった手助けをしてくれるとも思わない。

ロバート達なら助けようとしてくれるかもしれないが絶縁された娘を助けたせいで両親から目をつけられるかもしれない。

だから助手でも雑用係でもさせてもらえないかと先生に手紙を送った。


返事はすぐに戻ってきた。

ただどうやらタイミングが悪かったようだ。

先生は国に研究の成果が認められ、隣国での合同研究をするための責任者に選ばれたそうだ。その研究は内容に秘密が多く、連れて行ける人が限られていて。

いくらかつての生徒でも雇うのが厳しいとのことだった。


手紙には本当はアエミリア君がいてくれたら助かるのにと書かれていた。

お世辞でも嬉しい。

頼れないのは痛いが純粋に先生が認められたのは嬉しかった。

あのまま研究所に勤めていたら一緒に行けたのかなと少し思ったがこればかりは仕方ない。


手紙には続きがあり、自分の助手には出来ないが友人の博士の助手がちょうど辞めてしまったらしく私を紹介したら了承してくれたとあった。

かなり田舎で博士は偏屈な奴だがそれでも良ければ紹介すると書かれていた。


私はすぐに紹介して欲しいという旨の返信をした。

再度届いた先生からの手紙には

「アエミリア君ならそう言うと思ったよ!パキン博士は偏屈ではあるが悪い奴ではないし君とはきっと気が合うよ!では紹介状と住所を送るね」

と書かれていた。

同封された紹介状と住所を確認する。

実家から馬車で一週間はかかりそうな田舎だった。


先生からの手紙の最後には『私の大事なアエミリアどうか無理しないで』とあった。

今だ大事と言ってくれる先生にいつになく胸が温かくなる。


先生からもらった住所を確認してそちらへ向かう合同馬車へと乗る。

旅路は長い。

馬車が出発すると荷台の幌の隙間からもう最後になるかもしれないと生まれ育った領地をその目におさめた。

ゆらゆら、ゆらゆらと揺らされ気付けば故郷ははるか遠くに消えていった。

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