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出戻り令嬢は無愛想博士と語りたい  作者: 小埜我生


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3/3

トレイユ村

「ここがトレイユ・・・」

長旅がやっと終わり私が住むことになる村に着いた。

道中乗客は徐々に減っていきここに着く頃には私だけになっていた。


御者のお爺さんことルドルフさんともずいぶん打ち解けた。

最初は一応若い娘の私の目的地がトレイユと知って追っ手から逃げる犯罪者かこの世を憂いて最後の場所を探しているのかと疑われていたそうだが。


まあ、そう思ってしまった気持ちは後に理解できた。

同乗者のほとんどは男性で出稼ぎからの帰り。

女性もいたが嫁ぎ先からの帰省などがほとんど。

それもトレイユよりも手前の町で私を除く最後の一人が降りてしまった。


そこから二日ほどにあるのがトレイユ村。

ルドルフさんの住まいも手前の村でここまでは月に二度しかここに訪れないそうだ。

それくらいの田舎。


少ない村人全員をルドルフさんは知っていたし、たいした荷物も持たず、平民にしては小綺麗な娘がここに来るなんておかしいと疑ったのだ。

また私と年の近い孫娘がいるらしく疑念と同時に心配していたそう。


旅慣れない私を気遣って何度か途中の村で食事に誘ってくれた。

食事と言っても村で買ったものを馬車の近くで休憩しながら食べるかたちだが。

さすがに元貴族とは言えないので婚家から出戻って実家を追い出されたので恩師の伝手で仕事を紹介してもらったと簡単に伝えた。


「傷心の娘を追い出すなんてなんて家だ!」

身の上話を話した後のルドルフさんは大層怒りを露わにしていた。

そして同時に私を可哀想と思ったのか気遣ってくれた。

そういえば出戻った私の気持ちを気遣ってくれるのはロバート達やルドルフさんの家族以外だけだなとふと思う。


ルドルフさんは村には住んでいないが知り合いは多いらしく何でも頼れと笑う。

甘えすぎてはいけないが新生活に心強い味方が出来た。

博士についても尋ねたが名前を出すと少し苦笑いを浮かべる。


「あー、先生なぁ...悪い人ではねぇな」

それは明らかに言葉を濁していた。


「先生?」


「あぁ、村には医者がいないから何かあると先生に頼るんだ」


「そうなんですね」


「だから悪い人ではねぇんだが・・・何というか、少しばかり偏屈な人でなぁ。嬢ちゃんは苦労するかも知れねぇ」

なるほど、心配から言葉を詰まらせたのか。

確かにマゼータ先生からの手紙にも似たような事が書かれていたから余程なのかもしれない。けれど同時に気が合うだろうとも先生は書いてくれていた。

今はそれを信じようと思う。


「大丈夫です。ですがご心配ありがとうございます」


「まぁ、何かあったら俺や村の奴らにでも頼ってくれ」

私がきっぱり言ったからかやっとルドルフさんから心配そうな表情が消えた。


馬車は村の中心の広場に止まった。

私は馬車から降りる。

村には十軒ほどの家があるようだ。


「嬢ちゃんちょっと耳塞いどきな」


「はい?」

よく分からなかったがルドルフさんの指示に従って耳を手で覆う。

私が塞いだのを確認すると彼は馬車からベルを取り出しそれを勢いよく振った。


ガランガランガラン


耳を塞いでこれだとしたらかなりの大音量かもしれない。

音が止むと家々のドアが開いた。

そして馬車の方へ歩いてきている。


「わしは村への行商も兼ねているからこの音が聞こえたら嬢ちゃんも広場に来るといい」

そういえば私以外の乗客がいたスペースに手前の村で色々と荷物を積み込んでいた。

なるほどこれだけ人が少ない村だと店はないのだろう。

基本は自給自足で村人同士での物々交換が成り立って。

それではまかなえない物をこうやって運んでもらっているのか。


「ルド坊、美人のお嬢さん連れてるじゃないの」


「あれま本当ねぇ、お孫ちゃんかしら」


「いや、ルド坊のとこの子も美人だが別人だよ」


「婆ちゃんたち落ち着いてくれ!あと坊はやめてくれよ俺ももう爺だぞ!」


「何言ってんだか。あたしらからしたらまだまだヒヨッコさね」


「「「間違いないねぇ」」」

集まったご婦人方はそう言ってケラケラと笑った。

彼女らはルドルフさんとは馴染みらしく老年の彼ですら坊とからかっている。

彼もやれやれと気恥ずかしそう言いつつも仲は良さそう。


「で?どこから攫ってきたんだい」


「攫うわけないだろう!先生のとこに働きに来たそうだよ」


「先生のとこに?」


「初めまして皆様、アエミリアと申します。これからこの村に住ませていただきますのでどうぞよろしくお願いいたします」

私はご婦人方に一礼した。


「まぁ、まぁ、丁寧にありがとうねぇ」


「若い子が来たから村も賑やかだわぁ」


「何かあったら私らに頼りなぁ」


「ありがとうございます・・・えっと、お名前は」


「長女のサンよぉ」


「次女のリンだわぁ」


「末っ子のミンねぇ」


「・・・三人は姉妹ですか?」


「婆ちゃんたちは三つ子らしい」


「三つ子!!」

通りで似ている。

驚かれるのになれているのか三人はまたケラケラと笑った。


「この年になりゃどの婆も似てるけどねぇ」


「「そうよねぇ」」


「被ってる頭巾の色で見分けれるぞ。赤がサン婆、青がリン婆、緑がミン婆だ」


「あれま!勝手に教えるんじゃないよ!」


「そうしないと俺の時みたいに嬢ちゃんを揶揄うつもりだろう」


「「「・・・・・」」」

どうやら図星だったみたい。


「この婆ちゃんらは悪戯好きだから嬢ちゃんも気をつけてな。ほれ、そろそろ先生の家に行くといい。あの丘の上の赤い屋根の家だ」

彼が指さしたのは、広場から少し離れた小高い丘の上の家。


「あ、はい!ルドルフさん道中ありがとうございました。皆さんもこれからよろしくお願いいたします。またご挨拶に伺います!」

私はルドルフさんと村人に頭を下げて丘へと向かった。


家は思っていたより遠くなかったが荷物を持って丘を登ると少し汗をかいた。

門をくぐり、周りを見渡すとどうやら随分と手が足りていない事が分かった。

庭は荒れ、恐らく畑らしき所まで雑草が生い茂っていた。

門から家までの足場はレンガがはめられているため歩けたが土埃で汚れている。


ともかく新たな雇用主に挨拶をしなくてはと私は玄関まで歩き、ドアノッカーを叩いた。

少し待つが誰も来ない。

もしかしたら聞こえなかったかと再度叩こうとした瞬間だった。


「やめてくれたまえ、こちらにいる」

私の背後に一人の男性が立っていた。

やっと博士が登場させれました。

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