9.「優しさ」という名の毒
男がそう声を発してその場に倒れる。
「え……?」
何が起こったか分からないユウが声を出す。
「あ……あ……」
そして、男の丁度心臓部分にナイフが刺さっていることが分かり、ユウがガクガクと震えだす。
『殺人を犯してしまった』
ユウの頭の中で、そんな言葉が浮かぶ。
「に……逃げなきゃ……」
ユウは小さくそう呟くと、その場に遺体を放置したまま、その場を走り去っていった。
***
(ユウ……まだ戻ってこない……)
ユウが戻ってくるのを待っているが、なかなかユウが戻ってこないので、マリアは不安になりながら心でそう呟く。
その時だった。
ユウがフラフラとした足取りでこっちに向かっている姿が目に入り、マリアがユウの元に駆け寄っていく。
「ユウ!大丈夫だった?!」
マリアがユウに心配そうな顔をしながら、そう声を掛ける。
「マリア……マリア……どうしよう……」
「ユウ?」
ユウが真っ青になりながら小さな声で震えながらそう呟く。
「ユウ?どうしたの?あの人と何かあったの?」
マリアが震えているユウの顔を手で包み込みながらそう声を掛ける。
「僕……あいつを……殺しちゃった……」
「…………え?」
ユウの言葉が理解できないマリアがそう声を発する。
「どうしよう……僕……人を……殺しちゃった……」
「う……そ……」
ユウの言葉がようやく分かり、マリアが絞り出すようにそう声を出す。
静寂が流れる……。
ユウが人を殺してしまった……。
自分のせいでユウが人殺しになってしまった……。
マリアの中でグルグルと想いが駆け巡る。
ユウに男の事を話さなければ……。
ストーカーされている事を黙っていたら……。
ユウは人を殺さずに済んだ……。
マリアが自分のせいでユウが殺人に手を染めてしまったことに、どうしていいか分からなくなる。
「……とりあえず、帰ろう……」
マリアが声を震わせながら、今にも崩れ落ちそうなユウにそう声を掛ける。
そして、アパートに戻り、身体を縮こませながら震えているユウに、マリアは温かい紅茶を用意した。
「……少し落ち着くといいよ」
マリアがユウの隣に座って、ユウを抱き寄せながら、落ち着くようにそう声を掛ける。
ユウの身体は震えていた。
その震えている体をマリアはそっと撫でる。
「ユウ……」
マリアが静かにそう口を開く。
そして――――。
「一緒に逃げよう……」
マリアがユウの瞳をじっと見つめて、力強い声でそう言葉を綴る。
「でも……」
ユウがその言葉に戸惑う。
「ここにいたら捕まるのは時間の問題だから……。だから、一緒にここから逃げよう……」
マリアの言葉にユウはどう返事していいか分からずに俯いている。
「ユウが捕まらないためにも、私と一緒に逃げよう……」
マリアの言葉にユウが力なく頷く。
そして、大きめの鞄に必要最低限のものを詰め込み、今日はもう電車が走っていないので朝一の電車に乗れるように準備を始める。
やがて、夜から朝に変わろうとしている景色が窓際に差し込んでいく。
マリアとユウが鞄を持って玄関を出ると、始発の電車に乗るために駅に向かって歩きだした。
こうして、ユウとマリアの逃亡が始まった……。




