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羽を失った鳥は愛を貫く  作者: 華ノ月


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35/35

35.&エピローグ 羽を失った鳥は、愛の深淵で微笑む


【回想】


 ある日のこと、マリアはある喫茶店でシマノと会っていた。


 数日前、シマノから連絡があり、その喫茶店に来るように言われたマリアは、その誘いを断ったのだが、シマノに「断ったら後々困るだろうな」という言葉が返ってきたので、シマノの事をよく知っているマリアは、断る事でシマノが何かとんでもないことをしでかすのではないかと感じ、その喫茶店に行くことにした。


 その時に、見せられたのが例のマリアの顔に書き換えられていたフェイク写真で、シマノはその写真を使ってマリアを脅してきた。


 シマノは自分とよりを戻さなくてもいいから、時々自分の部屋に来て掃除や食事の準備、後、性欲処理の為にその体を使わせることを要求してきた。


 そして、それを断るならこのフェイク写真をネットにばら撒く……。


 シマノの要求にマリアはどうするべきか分からなくて頭が真っ白になった。


 シマノの性格は知っているので、断れば本当にネットにこの写真をバラ撒くだろう。


 そうなると誰の目にその写真が止まるかが分からない……。


 マリアの中で恐怖感が駆け巡る……。


 そして、シマノがなかなか口を開かないマリアに二日後にまた返事を聞くと言って席を立った。



 その二日後、マリアは再びシマノに会い、その要求を受け入れることを伝えた。その時に、マリアはシマノに抱き付きながら言葉を綴った。


「ねぇ……。どうせそういうことをする仲になるのなら、最初はスリリングな場所でしてみない?」


 マリアのその色っぽく発せられた言葉にシマノはすんなりと受け入れ、マリアに連れられるまま、例の崖の上にやって来た。


「………へぇ~、確かにこんな場所でするなんてスリリングだな」


 シマノが崖の上から海を眺めて、そう言葉を綴る。


 シマノのズボンの後ろのポケットにその写真が入っているのが見えて、マリアがシマノの背後に近付く。


 海を見ているシマノに後ろから抱き付き、その時にその写真をポケットから抜き取る。


 そして――――。



 ――――ドスッ……。



 シマノの背中にナイフを突く。


 そして、刺したナイフを抜くと――――。



 ――――ドンッ…………!!!



 シマノを崖の上から思い切り突き飛ばしたのだった……。


 そして、その写真を持って来ていたライターで燃やし、その写真が燃えて黒い煙が空に向かって吐き出されていった。



【回想終わり】



「でも、まさか生きていたなんてね……」


 ユウにはこの事を話していなかったので、昨日の夜にユウからその話を聞かされたマリアは驚きを隠せなかった。



『………マリア、シマノを刺して海に突き落としたよね?』


『……マリア、実はその時にシマノは死んでいなかったんだよ……』


 そして、その時にユウの口からシマノを自分が殺したことを伝えられたのだった。



「………ですが、ユウさんは聞かされていなかったのに、どうしてシマノを見つけることが出来たんですか?」


 モトキ警部が疑問に思っていたことをユウに尋ねる。


「あの日は本当に偶然でした……。同僚のクロイに誘われて飲みに行った帰り、偶然海辺でずぶ濡れのシマノを見つけたんです。最初は誰か分からなくて、助けるためにその場に駆けて行ったんです。顔を見てシマノだと分かり、シマノが「許さない……覚えとけよ……マリア……」って言っていたんで、マリアがシマノを殺そうとしたことを悟って、そばにあった大きな石で頭を思いっきり叩きました。シマノの事はマリアだけでなく、周りの人からも話を聞いたことが合って、どういう人かは知っていたので……」


 ユウが目を細めながら、その時の状況を淡々と語る。


 ユウの語った言葉にモトキ警部とサザワ刑事は驚きが隠せない。


 偶然が偶然を呼んだ事件……。


 モトキ警部が口を開く。


「マリアさん、シマノがその写真を使って脅そうとしたのは立派な犯罪です。なぜ、脅された時に我々警察に相談をしなかったのですか?そうすれば、ユウさんもシマノを殺すことは無かったのではないのですか?」


 モトキ警部の言葉に今度はマリアが口を開く。


「警察に相談?そんなの充てにならないからよ……」


「「え??」」


 マリアの発した言葉にモトキ警部とサザワ刑事がそう声を発する。


「あいつに言われたのよ……。自分の所にそういう事を探りに来た人が現れた時点でその写真をネットに流す……ってね……。だから……だから……」


 マリアがそう言葉を綴りながら大粒の涙を流す。


 ユウが口を開く。


「警察は証拠がなければ、すぐに捕まえられませんよね?だから、マリアは殺すしかなかったんですよ……」


 マリアの言葉……、ユウの言葉……、その言葉にモトキ警部とサザワ刑事は何か言葉を綴るにしても、答えになるような言葉が綴れない。



 ネット社会の闇……。


 便利な世の中になると同時に、それを悪用した犯罪も起こりやすくなる……。


 ネットは便利だが、このような悪質な犯罪に繋がりやすい……。



 シマノを殺害したこの事件は、殺害したマリアとユウだけが悪いとも言えない。


 シマノがフェイク写真を作成しなければ……、


 それを使ってマリアを脅したりしなければ……、


 この事件は起きることは無かった……。



 だからと言って、便利になったことが悪いわけでもない……。


 その便利になったものを使う人間によって『善』にも『悪』にもなる……。


 これが、便利な世の中に潜む闇……。




「しかし、我々警察に相談をしてくれれば、シマノがそんな事をしないように何か手段を取れたかもしれません。そうすれば、マリアさんもユウさんも犯罪者にはならずに済んだはずです!」


 サザワ刑事が大きな声で叫ぶようにそう言葉を綴る。


 その言葉に、マリアが自嘲気味な笑みを浮かべながら口を開く。


「……相談してどうなるの?もし、ネットに流されたら?警察は何かが起こらないと動かないじゃない……。ストーカーの時だって相手が手を出してないから何もできないって言っていたじゃない!!」


 マリアが叫ぶようにそう言葉を吐き出す。


 マリアが息を切らしながら、睨みつけるように、何もしてくれなかった警察を恨むような目で、モトキ警部とサザワ刑事を見据える。


 マリアの言葉にモトキ警部たちは何かを言うことが出来ない。


 静寂が流れる……。


 その静寂を破ってモトキ警部が口を開く。


「……一つ、聞かせて欲しい。アキさんの研究室から青酸カリを盗んだのは……マリアさん、あなたですか?」


「………青酸カリ??」


 モトキ警部が発した言葉にユウが怪訝な顔をする。


「マリア……?何のこと……?」


 ユウがマリアを見ながら、そう尋ねる。


 マリアはその言葉に何も言わない。


 その代わり、自分の上着のポケットから小さな瓶を取り出す。


「………やはり、君が盗んだんだな……」


 マリアが握っている瓶を見て、モトキ警部が静かにそう言葉を発する。


「どうしてそれを盗んだんですか?」


 サザワ刑事がマリアにそう尋ねる。


 その言葉にマリアは表情を暗くしながら口を開く。


「もし……もし、警察が私をあいつのことで逮捕しに来たら、その時点でこれを飲んで自殺するつもりだったのよ……。捕まってしまったら、もうユウと一緒にいられなくなるから……」


 マリアが悲しそうにそう言葉を綴る。


「マリア……」


 ユウがその言葉にポツリと呟く。


「シマノの件に関してはシマノにも非がある……。だから、なるべくその事を考慮してもらう。だが、青酸カリを盗んだことに関しては、きっちりと罪を償ってもらう」


 モトキ警部がマリアの顔をじっと見据えながら、強い口調で言葉を綴る。


 その言葉にマリアは口を閉じたまま何も言わない……。


「………それをこちらに渡して下さい」


 サザワ刑事がそう言葉を綴りながら、マリアが持っている青酸カリを受け取るために近付こうとする。


 その時だった。



 ――――グイッ……!!!



「「なっ?!!」」


 マリアがその瓶を開けて、青酸カリを口に流し込む。


 次の瞬間、マリアが口から血を流しながらその場に崩れ落ちる。


「マリア!!!」


 崩れ落ちたマリアをユウが抱き締める。


「ユ……ウ……」


 マリアが息絶え絶えになりながら、ユウの目を見つめて、ユウの頬に自分の右手を添える。



『ずっと……大好きだよ……』



 マリアが声は発していないものの、口の動きでそう言葉を綴っているのが分かる。



 そして、ユウの頬から手が滑り落ち、マリアの目が閉じられた……。



「サザワ!救急車を呼べ!」


「はい!」


 モトキ警部がサザワ刑事に大声でそう言葉を発して、サザワ刑事がポケットから携帯電話を取り出す。


 モトキ警部がマリアの所に駆け寄ろうとする。



「来るな!!!」



 ユウがナイフを向けながら、モトキ警部の足を踏みとどまらせる。


 そして、ナイフをモトキ警部に向けたまま、息絶えているマリアを抱きかかえる。



「……マリア、安心して……一人では逝かせないからね……」



 ユウが小さな声で呟くようにそう言葉を綴る。



「………さようなら………」


 ユウが小さくそう呟く。


 その言葉は、モトキ警部とサザワ刑事に向けた言葉なのだろうか……。


 それとも、この残酷な世界に向けた言葉なのだろうか……。


 そして、マリアを強く抱き締めたまま、宙に足を投げ出す。


 モトキ警部が止める間もなく、スローモーションのように、空に旅立つ様に、宙にユウとマリアが浮かぶ……。


 そして、そのまま一直線に海に落下していく……。



 ――――バッシャーーーーーン…………!!!



 ユウとマリアが海の魔物に飲み込まれるように、大きな水しぶきを上げて消えていく……。




~エピローグ~


 羽を失ったツガイの鳥……。


 ツガイの鳥は二羽で一つ……。


 ツガイの鳥の強い絆……。


 離れることは決して望まない……。


『生』も『死』も共にあるツガイの鳥……。



 それはユウとマリアにしか分からない「真実の愛」の形……。



 羽を失ったツガイの鳥は『愛』を貫いた……。


『死』という、選択をして……。




 後日……。


 サザワ刑事が警察署に戻り、モトキ警部の所に向かう。


「例の二人の遺体が発見されました……」


 サザワ刑事が海辺で上がった遺体のことを、モトキ警部に報告する。


 サザワ刑事が発見された遺体の状況を話す。


「……そうか……」


 サザワ刑事から話を聞いて、モトキ警部がしんみりとした表情で静かに声を発した。




 海が静かに波音を立てている……。


 海際の浜辺にユウとマリアの遺体が上がっている……。


 ユウとマリアの遺体は、寄り添うように、しっかりとお互いを抱き締め合い、どちらも穏やかに微笑んでいた……。



(完)


 こちらの作品を最後までお読みいただき、ありがとうございますm(__)m


 実は、この作品は一話目から伏線が張られていました。マリアが最初に植えていた「チューリップ」です。


 宜しかったら、全ての謎が解けたところでもう一度読むと、また違う感覚で読んで頂けると思います。


 そして、最後までお読みくださり、本当に、本当に、ありがとうございますm(__)m


 もし、この作品が良いと感じましたら、評価☆を頂けると嬉しいです!


 よろしくお願いいたしますm(__)m


 そして、これからも華ノ月をよろしくお願いいたしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
深く愛し合う夫婦が、ユウがマリアのストーカーを殺してしまったと思い込み、逃亡者になる――という導入がかなり強いです。 そして後になって明かされる、二人がそれぞれ抱えていた罪の繋がりは、この物語の中で…
青酸カリがどう事件と繋がるのかが最後まで予想付かなかったです。そういう使い方をするとは。 青酸系の薬物は苦いらしいですが、ビターエンドの象徴に感じられたのも味わい深いです。 良かったので星を贈らせてい…
最後まで読みました。 最初は仲の良い夫婦の日常から始まったので、ここからどうやってプロローグの崖の場面につながるんだろうと思いながら読んでいました。 読み進めるうちに、ストーカーやシマノの脅迫、警察の…
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