20.「信じたい」という気持ち
アキが記録表を見ながら神妙な顔でそう言葉を発する。
やはり、薬品は誰かが使用した形跡が無く、持ち出された可能性が強いという事になり、来客リストを見つめながら、頭に浮かんでいる事を無理やり引き離そうとする。
もし、誰かがその薬品を持っていたのだとしたら、それはとても危険な事だった。その薬品はただでさえとても危険な薬品なので、それを持ち出したのが誰かを早く見つけないと命も危険に及ぶ。
この研究室には監視カメラのような類は無いので、誰がその薬品を持ち出したかは分からない。
もし、誰かが持ち出したのだとしたら、場合によっては何かの殺人に使用される可能性もある。
「困ったな……」
アキが小さくそう呟く。
「それはない……よね……?」
アキの中で薬品を持ち出すことが出来た人物が一人だけ思い当たるが、信じたくないという気持ちが強くて、その人物に電話が出来ない。
その人物に聞いてみようとして、何度か連絡しようとしたが、そんな事する筈がないという気持ちと、その人物が持ちだしていないという事をを信じたいという気持ちが強すぎて、信じたくないという恐怖からか、怖くてその人物に連絡を取ることが出来ない。
しかし、大学からも急いでその薬品が何処にあるか調べるように言われているので、連絡をしないわけにもいかない。
「はぁ~……」
アキが大きく息を吐きながら、その人物に電話を掛けようとして、スマートフォンに手を伸ばす。
その時だった。
――――トゥルルルル……トゥルルルル……。
研究室に備え付けてある固定電話が鳴り響く。
「はい、もしもし。…………え?!」
研究室に掛かってきた電話の内容にアキが驚いたように声を出す。
「……分かりました。直ぐに行きます」
アキが電話越しにそう返事をして、研究室を出て行く。
電話の内容は、刑事がアキを訪ねてきているとのことだった。アキは刑事が待っていると伝えられている大学内に設置されたカフェテラスに向かう。すると、スーツを着た二人組の男が席に座っており、風貌からしてすぐに刑事だという事が分かる。
「初めまして、アキさんで間違いないですか?」
モトキ警部たちの所にやって来たアキを見て、サザワ刑事が微笑みながらそう言葉を綴る。
「あの……私に何か……」
アキが緊張気味にそう声を発する。
もしかしたら、行方不明になっている例の薬品が何か事件に使われて、それで自分を尋ねに来たのではないかと内心焦りを感じる。
「マリアさんの友人で間違いないですか?」
「は……はい……」
サザワ刑事の言葉にアキが緊張気味に答える。
信じたくなかったが、やはり薬品を持ち出したのがマリアかも知れないと感じ、気持ちが沈んでいきそうな感覚に陥る。そして、その薬品を使って何か事件を起こしたのかもしれない……。
「突然訪ねてきて申し訳ありません。マリアさんから最近何か困っていることがないか聞いたことはありませんか?」
「…………え?」
サザワ刑事の言葉にアキが呆気にとられた顔をする。
てっきり、マリアが薬品を盗んで事件を起こしたと思ったため、サザワ刑事の言葉がアキの予想している質問では無かったからか、拍子抜けしてしまう。
「……アキさん?」
アキが呆気にとられたまま口を開かないので、サザワ刑事がアキの名前を呼ぶ。
「あ、すみません。最近ですか?特には聞いてないですけど……」
アキが記憶を巡らせながら考えるが、特に思い当たらなくてそう返事をする。
「あの……マリアの身に何かあったんですか?」
アキがモトキ警部たちに身を乗り出しながら、そう言葉を発する。
「いえ……詳しいことはちょっと……」
サザワ刑事がアキの言葉を濁す。
「些細な事でもいいので知っている事があれば教えて頂けないですか?」
サザワ刑事の言葉にアキが記憶を巡らせる。
「うーん……そういわれても……」
アキが記憶を掘り起こして考えてみるものの、特に何も思いつかない。
その時だった。
「あ……そういえば……」




