9/5 大統領決断を ②
「あら、あなた早かったのね」
妻のジェシーは風呂上がりのためか髪をハンドタオルで包み頭の上でだんご状にしていた。
「最近は会議が多くてね、頭の疲れが取れてないんだ」
正直なところ会議は単調なものであり比較的スムーズに事が進んでいたのだが、会議中四カ国会議での重要な決断が頭をかすめ集中ができない状態にあったのだ。
「ご飯はできてるわよ。久しぶりにお酒でも飲む?」
「いや、今はやめておく。四カ国会議が終わってから盛大に飲もう」
適度に気を緩めた方がいいに決まってる。時に根を詰めることも大事だがそれは今ではない。今は私の周りには能力の高い人間が沢山いる。理想も経験も知見も申し分ない。いや、私よりも優れた人間は次世代に沢山存在する。私はそれをまとめ、決断を下す、そして責任を持つ事が大事なのだ。まだ、その時期ではないが、私の中には私が行うべき決断が毎分頭の中を占領していく。だからこそ、全ての気を抜いてはダメなのだ。
「わかった。ご飯髪を乾かしてからでもいい?」
「あぁ、俺も先に着替えてくる」
「ねぇ、あなた。その、あぁ、って最近口癖になってるけどやめたらどう? 気が抜けて聞こえるわ」
その時、なぜ私は頭に血が登ったのかわからない。普段なら「わかった」「ありがとう、そうする」など理解を示し今後気をつけようと頭にインプットする。どんなに苦しい時でも溜飲を飲み込みその場を収めてきた。だが、今の自分には飲み込めるだけの力量がなかったのか、前頭葉が弱っているのか、本当に疲れているのか、原因はわからなかったが正しい決断をできなかった。
「別に口癖になってはいない。疲れてるんだ」
誰だって相手を気遣った言葉に対して反論、または言い訳をしたら腹が立つだろう。私も一度は飲み込んだものを誰もいないところで吐き出したことなどいくらでもある。しかし、それは私の意思の強さからくる蘇生術だ。誰もが強固な意志を持ち続ける事ができるわけではない。まして妻はそういった修羅場を潜っていない。
「なにそれ」
キレの強い言葉は彼女と出会った高校以来だ。
「あなた私に言ったよね、もし変な癖があったら逐一指摘してほしいって。自分ではわからない相手への不快があるかもしれないって。今のあなたはとても不快だわ」
「そんだけで不快?随分と綺麗に育ったものだね。家ぐらいいいじゃないか」
「最近多いって言ってんの。自分がどんな口癖で取材受けてるか知ってる? 最近のテレビ見てんの? 一言目にはあぁ、あぁ、あぁ、気が抜けてしょうがない。何が大統領よ。そんなんじゃ、あの決断も碌にできないわ。結局最後に決断する時に、あぁ、こっちにするって気を抜けたように決めるわ」
妻が息切れもせず言葉をならべドアを強く閉めた。
その行動についに私も理性がなくなり、気づいたら街灯の下で缶ビールを片手に歩いていた。




