37 優しい彼と
いつの間にか眠ってしまったのね・・・。
痛む体を起こして辺りを見渡すと、そこにエニフィール様の姿はなかった。
エニフィール様?
焚き火はついているのに・・・。
すると突然、言いようのない不安が押し寄せて来た。
まさか・・・消えてしまったの??
私は居ても立っても居られず、岩の洞窟から飛び出した。
外はまだ暗く、雨も降り続いていた。
エニフィール様!
どこですか!!
私を置いて行かないでくださいっ!
まだお別れも言えていないのに!
どこを探せばいいのかもわからず私は走り出した。
すると、突然ドンッと何かにぶつかって。
「ミリアさん??どうしたんですか??」
顔を見上げると、フードを被ったエニフィール様が心配そうに私を見下ろしていた。
「エニフィール様・・・」
良かった・・・。
まだいらっしゃった。
暖かい涙が私の頬を伝った。
でもそれは雨に紛れて、彼が気付くことはなかった。
「風邪をひいてしまいますから、早く戻りましょう!」
エニフィール様は私をフードの中に抱き寄せて走った。
洞窟に戻ると、エニフィール様は私を焚き火の前に座らせた。
「お腹は空いていませんか?少しですが、野いちごを取って来たんです」
彼はフードのポケットから両手いっぱいの野いちごを取り出した。
そして私に渡そうとしたけれど、こんな物を渡していいのかと悩んでいる様子で。
私はそんな彼に手を差し出して微笑んだ。
「ありがとうございます。いただきます」
「あ、はい。どうぞ」
初めて食べる野いちごは・・・。
「あ。やっぱり酸っぱかったですか?」
「は、はい。でもすごく体に良さそうですね」
「あ・・・本当ですね。体には良さそうです」
「ふふ」
見た目は大人だけれど中身は私の知る彼のままで、私はほっとしていた。
それから眠くなるまでの間、私は彼が過ごした五年間の話を聞かせて欲しいと頼んだ。
たとえ彼が消えてしまったとしても、私が彼の過ごした日々を覚えていれば、彼の生きた五年間はなかったことにはならないと思ったから。
でもいくら話を聞いても、研究室と屋敷での思い出ばかりで。
毎日が同じようなことの繰り返しでしたから、これといった思い出はないですね、と言い出して。
思わず笑ってしまった。
それから二人で甘い野いちごを見つけては喜んだり、学園時代の思い出をお互いに話し合ったりした。
私はこの時に初めて、エニフィール様と同級生だったことを知った。
未来の彼はそんなことを言っていなかったし、あの頃の私は自分のことで精一杯で彼のことを知ろうともしていなかった。
あんなに一緒に過ごす時間があったというのに、なんてもったいないことをしていたんだろう。
彼と過ごす時間は楽しくてあっという間で、気付けば辺りは明るくなっていた。
「ではそろそろアルドレアに向かいましょうか」
「・・・・・」
彼と過ごす時間は残りわずかなのだわかると体が動かなかった。
「ミリアさん、もしかしてどこか痛みますか?もう少し休んでから出発しましょうか?」
彼と離れがたいだなんて口が避けても言えなかった。
もうすぐ消えてしまう彼に、そんな残酷なことを言えるはずもなかった。
「大丈夫です。行きましょう」
私はアルドレアに戻らなくてはいけない。
でないと、彼が私を助けに来てくれた意味がなくなってしまうから。
どんなに辛くても、彼とはちゃんとお別れをしなくてはならないのよ・・・。




