36 それぞれの想い
ミヒル視点
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スレイン視点
サハルは広間を見渡してため息を吐いた。
「もぬけの殻ですね」
「一足遅かったか・・・」
俺たちは夕刻にキーフランドのテネスの屯所に到着し、ミリアを見たという者に会った。
馬車が通過したのは真夜中で、フードを被った若い青年と、ドレス姿で眠っているいかにも高貴な女性が乗っていたという。
どこへ向かったのかはわからないと言うので、俺たちはこの地域の詳細な地図をもらって辺りを捜索していた。
先程この山の麓に住んでいた老夫婦に話を聞くと、この屋敷は20年ほど前に持ち主が亡くなり、それからは空き家になっていると言うので、拠点に使われる可能性が高いと見込んでここを訪れていた。
「今朝まではここにいたのかもしれませんね・・。もう夜も遅いですし、今夜はここに泊まりましょう」
サハルはそう言うと、テーブルの上にあった残飯をテキパキと片付け始めた。
俺は外で待っていた傭兵たちを一階に呼び入れ、各自で適当に休むように言った。
俺がホールに立っていると、二階を確認しに行ったサハルが上から声をかけて来た。
「ミヒル様、来てください」
「どうした?」
二階に上がると、廊下側に後付けの鍵が取り付けられた部屋があった。
もしかして、ここにミリアを監禁していたのか?
中に入ると、古いベッドが置かれているだけの粗末な部屋だった。
「ミヒル様これを」
サハルがベッド脇に落ちていた細長い紐を拾った。
ランプを近づけると、紐にはうっすらと血が滲んでいた。
「これでミリアを縛っていたようだな」
女相手に酷いことを・・・。
テーブルに置いてあった皿やフォークの数からしても誘拐犯は少なくても四人はいたに違いない。
ミリアは不安と恐怖に震えていたはずだ・・・。
「ミヒル様、明日はここから北方にあるマリノという街に行ってみましょう。そこからさらに北に行くとしても、ここで休憩や補給を行なっている可能性があります」
「そうだな・・・」
「今日は早めにお休みになってください」
「あぁ」
「では私はお茶を淹れて来ます」
サハルが部屋を出て行くと、俺はベッドに仰向けになった。
ここにミリアも寝ていたのかもしれないな・・・。
今あいつがどんな状況なのか、考えただけでも恐ろしくてたまらない。
ミリアのことを思うと、俺は今日も眠れる気がしなかった。
グラスの中の氷が溶ける様子をただぼんやりと眺めていた。
部屋に戻っても眠れる気がしない私は、就寝時間が過ぎても執務室に留まっていた。
マッシュの報告によると、ミリアを乗せていたと思われる黒塗りの馬車は、王都を北に駆け抜けて行ったという。
すぐに北方にある5都市に伝書鳩を飛ばし、目撃情報がないか調べるよう指示を出したが、これと言った情報は上がって来なかった。
そして極め付けには、モニカに付けていた調査員からも、昨日から彼女の行方がわからないとの連絡があった。
常に屋敷を見張っていたが、いつの間にかいなくなっていたというのだ。
そしておかしなことに、昨日から今日の正午あたりまでの記憶がなくなっているという。
彼女が何らかの魔道具を使って屋敷を抜け出したに違いない。
私は彼女の執念を甘く見ていた。
今回の誘拐にモニカが関わっているのかと思うと吐き気がした。
もうこれ以上彼女のことを看過することは出来ない。
私はもう何度も頭の中で彼女のことを断頭台に立たせていた。
たとえミリアが無事に戻ったとしても、私はもう彼女を許すことはないだろう。




