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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第四章 Allies激動
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呉上空

 

 その日、海面すれすれを飛行する拡張戦術機の集団があった。

 先頭にいるのはシュトラーフェ。エリアステルスを展開し、レーダー波から味方を隠す。その両脇に控える桜花と風花。後から月光がシュトラーフェを追いかけている。

 そう、Alliesの戦術機部隊である。

 高度をギリギリまで下げているのは、より探知されにくくするためだ。


 東シナ海海上は穏やかである。

 しかし彼らは高速によって海水を巻き上げ、荒らしていく。

 一面に広がったその様は見事である。


 彼らが向かうのは日本。

 目的は一つ。

 未だ現状として中国の支配下である日本の解放だ。

 幸い中国軍は一箇所に集中して駐屯しており、民間人に被害は出ないだろうとの事だ。


 次第に陸地が見えてくる。九州の南端、大隅半島と薩摩半島だ。部隊はまだ高度を上げず、陸地を避けるようにして太平洋へ出る。

 中国軍がいるのは広島、旧日本軍呉基地だからだ。

 南から九州に沿って北上。豊後水道を通り、瀬戸内海へ入った。

 大小多くの島々が点在し、海峡はとても狭い。そこを縫うように駆け抜ける。


 広島の南西部に位置する呉。その近くには江田島や倉橋島など比較的大きな島があるため、多少の迂回が必要だ。

 東側から回り、呉は間近。


 残り10km程となった時、此度(こたび)も部隊長である長谷(ながや)から指示が降る。

「5km地点で上昇、呉基地を奇襲する!」

 同時に、月光は背負っていた増槽を落とす。航続距離を伸ばすための、外付け燃料タンクだ。空戦の際はただの重りになるため、外せるように設計されている。


 水飛沫を上げながら海上を驀進する。

 そして、5km地点にたどり着くと一斉に舞い上がった。


 空に迎撃機の影は一つもない。

 完璧な奇襲に成功したようだ。

 呉基地へ殺到するAllies部隊。

 駐機してあった中国軍の百十五式拡張戦術機へ攻撃を仕掛け、破壊する。

 中国軍兵士たちは、突然の襲撃に周章狼狽した。何人かは自機に辿り着き、発進しようとするがいとも容易く阻まれる。大人しく捕虜となった多数の兵士と違い、機の爆発によってその命を失った。


 掃討も終わろうかというその時だった。

 長谷のもとに、司令部から緊急電が入る。


『旧第四師団がそちらへ向かっている! すぐに備えろ!』



  * * *



 時系列を戻す。

 後方から指揮を執る西馬。

 何事もなく終わろうとしていた戦闘の中、偵察機から送られてきた情報に目を丸くした。

 すなわち、『大陸から大部隊が接近している』と。

 さらに続報として、『機種は月光、旧第四師団所属機とみられる。現座標は東経百三十四度――』

 ついに来たか、と内心毒づいた。

「今までゆっくりしていた割にはずいぶん急ですね」

 索は顎に手を当てて呟く。

「どこかで我々の動きを察知したのか……何にしてもこれはまずい」

 そう言いながら西馬は立ち上がり、指示を出す。

「旧第四師団がそちらへ向かっている! すぐに備えろ!」

 そしてため息をついた。


 一番の懸念材料は、兵士達の精神状態だ。同郷の、それも一度は共に戦った者達との戦闘。

 もし躊躇うようなことがあれば、Alliesごと瓦解しかねない。蓮二らが上手くフォローに回ってくれれば被害は抑えられるだろうが、限度というものがある。

 こればかりは後方にいる制服組がどうにかできるものではない。


「……頼むぞ」

 柄にもなく、西馬は祈るように手を握りしめた。彼にできるのはこれだけだ。



  * * *



 守はその報せを聞き、身が総毛立つのを感じた。ついにその時が来たのだ。

 体を震わせた。

 今までのどんな敵よりも怖く感じる守。

『守』

 その時、蓮二が呼びかけた。

『本当にダメなら俺がお前の盾になる。お前は戦わなくていい』

 本当に心配しているような、そんな声で言った。

『私も手伝うよ』

 結も同調した。


 ここで二人に甘えれば、きっと自分は楽だろう。精神的苦痛は少なくて済む。

 だが、それを守が許すかはまた別の話。

 そして、気を使われた事は、守にとって屈辱だった。針のむしろに包まれたような痛みが心にじわじわと刺さる。優しさは、時に誰かを傷つけることもあるのだ。

 しかし、それで折れるほど守は弱くなかった。


「大丈夫」

 悔しさを噛み殺し、言葉をひねり出す。

「自分で戦う」

 感情の蠢きを、やけに冴えた理性で押さえつける。逃げ出してしまわないように。

「俺はできる」

 言葉に出して自分を鼓舞する。

『俺たちって言ってくれたら嬉しかったんだけどね〜』

 守のネガティブな感情を軽く流してしまいそうなほど明るい結の声音。

『人生ソロプレイかー?』

 蓮二からも茶化すような言葉が聞こえてきた。

『……ヘタレ』

 シュトラーフェも便乗した。多少方向性が違う気がするが、指摘するのは野暮というものだろう。

 守は声を上げて笑った。

 そして、笑みを浮かべたまま近くにいたシュトラーフェと桜花を見る。

「俺たちなら、やれる」

 物を触って確かめるように言った。

『へへっ、そゆこと』

 少し恥ずかしそうに結は言った。

『しょうがねえから守ってやんよ』

「自分の身は自分で守るさ。ついでにお前らも守ってやるよ」


 敵を倒すことを結果として求めるのではなく、仲間を守護にすることを目的とする。

 ――なぜなら、自分の名前は守だから。

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