見参
『来たぞ!』
米粒のような大きさだった影が、徐々に大きくなっていく。
それは間違いなく月光だった。
悠然とAllies部隊に近づく。
と、その時。
彼らのうちの数機が火を噴いた。
被弾したのか。いや、そうではない。
「全機散開!奴らはやる気だ!」
ミサイルを発射したのだ。長谷はそれに一瞬で気付き、被害を減らすための命令を下した。
難なくミサイルは撃ち落とされ、Alliesに被害は出ず。
彼らには、言葉を交わすつもりもないらしい。その事実に長谷は歯噛みする。せめて、過去共に戦い、敵として交えたこともあった者達に対して話をしたかった。
――わがままだろうか。
憂いをそのままに、長谷は新たな命令を出す。
「全隊撤退!」
* * *
その言葉に、蓮二は目を点にした。
真正面から戦うものだと思い込んでいた。
『どういうことなんだ?』
『さあ……』
守や結も戸惑いを隠せない様子だ。しかし、命令には大人しく従った。三機は殿軍を務め、第四師団から距離を取る。
なぜ日本占領軍の掃討を目前にして、逃げるような真似をしたのか。
それは、牛島率いる旧第四師団の目的を推し量るためだ。Alliesを叩き潰しに来るのか、日本から排斥するだけなのか。
長谷は後者だと読んだ。
Allies上層部は、牛島を平和外交の障碍になると判断した。
しかし、それでも同じ民族同士で争うような悲惨な状況は避けたかった。Alliesの統一見解として、同族同士で戦うのは決して日本国民に良い影響を与えない、というのがある。
感情を蔑ろにした政治は存在しないのだ。
今、彼らにとって数少ない戦力を失うのは下策だ。Allies、それもシュトラーフェらと戦えば、それ相応の被害が出ることは明白。
もっとも、それは根拠のうちの二つ目。
最も大きなものは別にある。
どちらも自分達を日本と名乗ってはいないものの、事実上日本人であり、なにより主権者足りうる者だ。
日本本土を支配する脅威が取り除かれた今、状況は複雑化してきている。
わかりやすく言えば、二つの日本が日本を巡り争っているのだ。
互いに相容れない思想を持っており、二勢力が手を携えることはないだろう。
これは、ただの戦争ではない。
刃を交えて解決できるものではないはずだ。
なのだが……。
彼らは追ってきた。
領土上空を通り過ぎ、領空を抜けてもその速度を緩めることはない。
完全に読みは外れた。
* * *
「いつまで逃げる気なんだろ……」
蓮二は思わず呟いた。
「さあ……」
特にやることのないシュトラーフェは暇そうである。あくびをひとつした。
そんな彼女を横目に、蓮二は背後を見やる。
100m程の間隔を保ってついてくる彼ら。
その間はしばらく変わらない。
いや、追ってきた当初から変わっていなかった。
「そういやさ、第四師団の月光って特別仕様だったよな?」
「ああ。出力制限が解除できるやつだ」
「なんで今使ってこないんだろうな」
純粋な疑問だった。
「……たしかにな」
「使えばさっさと追い付けて戦闘に持ち込めるはずなんだけど」
「追う側の方が有利でもあるが」
追われる立場というのは、基本的に受け身に回らざるを得ない事が多い。つまりは、主導権を相手に握られているわけだ。
どう料理しようが構わないのである。
だと言うのに、ミサイルの斉射以来攻めの姿勢を見せない。
「わざわざ要らぬ戦いをしたくないのだろうな」
「やっぱりそういうことだよな」
「ただ……」
シュトラーフェは一呼吸置いた。
「このままこの速度でついてこられると月光隊のエネルギー残量が気になる。最悪奥の手を使うしかなくなるぞ」
「なるほど」
現在の飛行速度は、月光の巡航速度+50km/hほど。そもそも巡航速度とは、最もエネルギー消費の少ないスピードのことである。
そこから外れると燃費効率が下がり、航続距離が短くなっていくのだ。
個体差もあるが、空戦でかなり消費しており、帰り道が心許ないほどまで減っている。
それを予測していたのだろうか。
「何にしてもまずいな……それなら」
「どうするんだ?」
「決まってるさ」
蓮二は長谷へと通信を繋いだ。
『どうした?』
「俺があいつらを引き付けるんで、そのうちに速度を落として離脱してください」
『うむ……』
長谷は渋った。
「どうしたんですか?」
『すまないが、それは出来ない』
「なぜです?効率的だと思うんですが」
『室長……いや、司令から言われていてね。単機での行動はやめさせるようにと』
「はあ、そうですか…」
蓮二は大人しく引き下がり、通信を切った。
「俺って面倒臭がられてるのか」
『らしいな』
シュトラーフェは笑って言った。
投稿大変遅れましたすみません。
リアルの方が忙しく、溜めも使い切ってしまったので一ヶ月〜二ヶ月ほど休載させていただきます。いつも読んで頂いている方、申し訳ありません。




