志
連合議会は紛糾していた。議題は中国を乗っ取った牛島への対応である。
「どういう形であれ、彼等が中国の敵であることは事実だ。従って友好的な関係が築けるはず」
「ならばなぜすぐに今の政治体制を破壊しないのか。奴らは中国を利用して版図を広げるに違いない」
など、意見は真っ二つに割れているのだ。
どちらも客観的に見て間違っているとは言えない。それ故に面倒なことになっていた。
何せ時間がない。このままダラダラと続くようでは、牛島らに大きな隙を与えてしまう。
遂に西馬は立ち上がった。
「一刻の猶予もありません。我々Alliesに、日本侵攻の許可をください!」
声を張る西馬に対し、議員の一人が問う。
「牛島とやらは日本人でしょう。彼が中国の実権を握っているんです。それなら日本は彼のもの。何の問題があるんです?」
至極真っ当な疑問だ。しかし、それへの答えを西馬は持っていた。
「あの男は、和平を作り出す上で必ず障害になりうる人間です」
「……詳しくお聞かせください」
口調は丁寧だったが、語気は鋭かった。
「もちろんです」
西馬は怯まない。
「奴の行動原理は"それが日本にとって得か否か"です。これは我々が掲げる目標と真っ向から反するものであり、我々の障碍となりうるでしょう」
「ふむ……」
「東条……前日本軍総司令を見限ったのはおそらく、このまま東条の策が進めば日本にとって良くないと考えたからです」
議員達は考える表情だ。
「他に事例は?」
「有効な物はありません」
「判断材料は一つか……」
「なにもすぐに全面戦争をするわけではありません。敵対関係にはなるわけですが、我々の理想を進めていく上では避けられないことです」
悩む議員になおも食い下がる。
* * *
台湾にて待機していた主力に通達が下った。
「日本奪還作戦の準備をせよ」
同胞と殺し合うことになる。
つまりはそういうことだ。
そう経験のあるものではない。
旧日本軍厭戦派である青風会員ならば、一度第四師団と刃を交えたことがある。人的被害を与えなかったその時でさえ辛い思いをしたのだから、真っ向からの戦いとなればどうなるかは推して知るべしである。
守も同様だろう。
蓮二と結は違った。
二人だけの頃からずっと戦い続けていて、慣れっこになっている。少なくとも蓮二は、自分の目的のためにはその程度で迷ってはならないと思っていた。
そんなわけで、ブルー気味な守を二人が慰めることになったのである。
「お前らすげえよなあ本当……」
「俺は最初から決めてたからな」
「私は、うん、慣れちゃった」
てへ、とでも言いそうな表情で、黒髪を揺らす結。またそれが守を悩ませる。
「俺も慣れるのかな」
生来真面目な守はきっと苦しむだろう。それが手に取るようにわかるだけに、安易な慰めの言葉をかけることが、二人には躊躇われた。
「……気持ちの問題かもしれないな」
蓮二は言った。
「明確な目的があれば、それに向かってひたすらやるだけ。敵が誰だとか関係なくなるよ」
守は、蓮二や結と違って、『何が何でも』という強い意志で来たわけでは無い。
確かに自分の意思で来たことは確かだが、強さの面でどうしても二人には劣るのだ。
そこの違いが現れるところなのだろう。
「羨ましいな」
守は苦しげに笑った。
ちなみにシュトラーフェは、一歩離れたところで三人の会話を聞いていた。
* * *
日本にいるAlliesメンバーからも情報が届く。鈴藤電子機器の金城や外交官の反町などからだ。
曖昧になっている日本の主権。中国が牛島らに乗っ取られたのが日本制圧の直後であったため、占領政策も何もなく放置されている。
暫定的に、侵攻部隊を率いていた将軍が軍政を行なっているが、これにも限界はある。
彼らによると、元日本国民の生活は守られているようだった。
社会基盤はそのままに為政者と最高意思決定機関が変わった程度らしく、大きな混乱は起きていないらしい。
大きな、というところが重要である。
未確認だが、小規模の弾圧が行われたという噂も流れており、水面下では不満が溜まっているようだ。
このままでは民衆の不満が爆発し、その結果としての大規模な弾圧が起きることが予想される。
――早く解放しなければならない。
そう考えているのは、Alliesだけでは無い。
旧第四師団もまた、同様に考えていた。
二者の立場は正反対。
だがその構想は類似している。
衝突が起きるのは間違いない。
板挟みにされる日本。
その行く末を握るのは、どちらになるのだろうか。
感情言葉選び辞典というものを買ってみました。意外と参考になるものです。




