急転
居ても立っても居られなくなった蓮二は、指揮所にいた西馬の元を訪れ、そして尋ねた。
「あの、日本は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、と言う他ないな」
表情を変えずにそう答える。今の時点では、例え危険な状態でもどうしようもないのだ。
未だ『日本からの要請がない限り介入は不可』という誓約は生きている。
「しばし待て。策はある」
確信めいた調子で言う西馬。
「はあ……」
蓮二は曖昧な返事をした。
その時だった。
「中国軍の非常警報を傍受しました! 発信源は黄京です!」
待機していた通信員が叫ぶように言った。
その言葉に、周囲は騒然となる。
黄京とは、中国の首都だ。国家指導者である七人の先王。彼らが身を置く先王宮も、そこに存在する。
そこから、軍における非常時の際発せられる非常警報が出たと言うことは、十中八九国に関わる危険な状態だと言うことだ。
「ある限りのラインを全て使って情報をかき集めろ!」
西馬は叫ぶ。
全員がすぐさま反応し、自分の仕事を始める。
蓮二はただ立っているだけだった。
「司令! 中国国営放送が電波ジャックされた模様です!」
「モニターに出せ!」
「了解!」
声をあげた士官が手元の機器を操作する。一瞬のノイズの後、最も大きなモニターにそれが映し出された。
仕立ての良さそうな服を着た七人が後ろ手を縛られ、跪かされている。見るからに貴族のような様相だが、その表情は皆青白い。
「あれは……先王……!」
中国出身の通信員が言葉を零した。
全員に緊張が走る。
一瞬たりとも見逃すまいと、誰もが画面を注視する中、男が現れた。
見覚えのある装い。髪型。顔。そして、表情。
「……牛島、か……ッ」
第四師団の姿を捉えられていなかったのは、何かの不具合ではなかった。そもそも日本にいなかったのだ。
『中国軍の皆様、日本の占領、ご苦労様でした』
不敵に笑って牛島は言う。
『ですが、残念なお知らせです。今をもって、中国は我々の支配下となりました。従って、アジア連合は我々のものです』
西馬は冷や汗を垂らした。
「……まさか」
『ここに、日本を再び作り出す。薄汚い手の内から我が国土を取り返し、もう一度栄華を極めるのだ!』
「やはりか……!」
蓮二は驚きつつも、訝しげに西馬を見守っていた。
実は、西馬が考えていた作戦こそ、牛島が今回使ったものなのである。つまり、先を越されたのだ。
日本が陥落し、政府は解体。日本を名乗る国はその時点でいなくなった。
それならば、日本を新たに作ってしまえばいいのだ。
国の定義は『領土』『国民』『主権者』、三つの存在である。それさえあれば、一応は国として認められるということだ。
平和連のいずれかの国から土地を借り、そこを日本とする。幸いAlliesの予算には余裕があった。
まだ公式の案ではないものの、Allies参謀本部ではかなり詰められていた策だったのだ。
* * *
対応を連合議会とも協議するため、西馬は参謀達を連れて一度本拠地へ戻った。彼の独断で動けるほど些細な問題ではない。
台湾に残された兵士たちは、相変わらず日本を憂いでいた。
その間にも、旧第四師団による占領政策は続く。
先王を安易に殺さず捕虜としたことで、体制はそのままに乗っ取ることができた。官僚は先王の命を握られ、従うしかなかったのだ。同様に各地方からの襲撃もなく、安全に事を進められている。
故に、Alliesに残された時間は少ないのだ。
それもあって、主力は台湾に残っていた。部隊全員が緊急の出撃に備え、ほぼ全ての時間を詰所で過ごしている。
蓮二は例外的に自室で過ごしていた。出撃のシークエンスが根本的に違う上、誰かに見られるのは避けたいからである。
それはもちろんシュトラーフェのことだ。
さすがに、誰も来ない格納庫で日がな一日過ごさせるのは酷である。
西馬の特別措置だった。
「蓮二、暇だ」
ベッドの上で膝を抱えていたシュトラーフェが呟く。しかし、返事はない。
蓮二は部屋の中央付近で、胡座を組んで座っていた。微動だにしない。
どうやら瞑想をしているようだ。
つまらなそうに蓮二を観察するシュトラーフェ。集中していることは見て取れる。だが、暇な事には変わりない。
「ふぅん……ん」
何を思ったのか、彼女は蓮二の真似をし始めた。
座り直し、目を閉じる。意識を集中させ、考える事をやめる。やめるつもりだったが、どうにも難しく、どうしても何か思ってしまう。
一言も喋らず、全く同じ姿勢で座り、目を閉じている二人。はたから見れば妙な光景である。
だがシュトラーフェはそれで満足だった。
一回分お休みさせていただきました。すみません。
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