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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第四章 Allies激動
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「西日本の基地は全て……壊滅しました」

 参謀は、生き絶える寸前のような表情で言った。

「民間人の被害は?」

「今のところ、ありません」

 東条は必死に感情の起伏を抑え、瞑目した。唇をグッと結び、手を強く握る。


 戦術機師団の再編が終わっていない今、第四師団抜きでは、数の力で押してくる敵には勝てないだろう。事実、侵攻を退けることができていない。

 Alliesには、日本を捨てた西馬には頼りたくない。

 国民への被害が無いということは、非戦闘員を傷つけるつもりは無いのだろう。ならば、日本が守れなくとも、日本国民の生命を保護することは可能なはずだ。

 しかし、だからと言って、軍人が逃げるわけにはいかない。そこに待っているものが破滅だとしてもだ。

 全員、兵学校を卒業する時に誓ったのだ。

 国の為に命をも投げ打つと。


「皆、聞こえるな」

 東条は話を始める。

 無言によって、問いに対する肯定が示された。

「皆よく戦ってくれた。賞賛に値する。……私はここで死のうとも戦うつもりだ。すくなくとも、それが日本軍の名誉を守ることだと思っている」

 一呼吸おく。

「しかし、諸君らにそれを全うせよと命令はしない。命は限りあるものだ。好きに使え」

 手を再び強く握った。そして、マイクを手に取る。

「全隊に通達。……貶しはしない。命が惜しいものは今すぐ逃げろ。逃げることもまた、勇気だ」

 彼の言葉は一字一句違えず、全軍に伝わった。あとは、答えを待つばかり……。



  * * *



 短いようで長い時間が、静粛なまま流れた。

「報告。総数にして、全体の二割ほどが投降、もしくは退避。現兵力は八割です」

 残った数は思ったよりも多かった。半分にも満たないだろうと思っていた東条は、少し驚いた。

「お前ら、馬鹿だな」

 マイクに向き直る。

「……"自分の命を守った"皆に告ぐ。私が言える立場ではないが……生きてくれ。それで、靖国で会おう」

 声は震えていた。

 決して、彼らの名誉を損ねるような扱いをしてはならない。呼び方をしてはならない。その思いからくる言葉だった。


「残った者たちへ」

 ギンと目が光る。

「戦力を一度結集し部隊を再編成。その後、中国軍本隊へ強襲を敢行する」

 天を仰いだ。

「諸君らの奮戦を期待し、訓示とする。日本軍人の底力を思い知らせてやれ!」

「おおおおおおおっ!!!」

 司令室から、無線から、部屋の外から、雄叫びがあがる。


 その喧騒の中、東条は誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


「すまない」



  * * *



 日本軍兵士達は、文字通り最後の一人になるまで、死力を尽くして戦いきった。最後の一人が生き絶えても、生きていたAIによって動いていた兵器は戦った。人が乗り移ったように、仇を取るように。

 この戦いによって東条以下日本軍は、旧第四師団を残して壊滅したのである。


 同胞が死に絶えていく様を、目の前で見せつけられたAlliesの兵士達は言葉を失った。あまりにも凄惨で、あまりに悲しい最後だった。

 ある者は涙し、ある者は口をあんぐりとさせたまま立ち尽くし、ある者は顔を覆って肩を震わせている。


 その中に、西馬の姿はない。

 一人、屋上に居た。

 日本の方角を向き、涙を流していた。

「馬鹿野郎……」

 宣戦布告の報を聞いた時と、全く同じことを言った。

 しかし、その言葉に力はない。弱々しい。

「戦死っていうのはな、綺麗なものであってはならないんだよ」

 死を美化することは、西馬が極端に嫌っていたことだった。

 死んだ若い兵士達には、未来があった。人生があった。それをむざむざと絶たせておいて、『美しい』は無いだろう、と。

「死ぬより、生きてどうにかすることを考えろよ……ッ」

 西馬は誰に言うでもなく呟いた。

 夕焼けの空は、死者を弔うように淡く染まっていた。



  * * *



 日本海の底深く。一隻の潜水艦が座している。日本唯一の潜水空母、白鯨だ。それに乗っているのは旧第四師団である。

 指揮するのはもちろん牛島。

 彼らは東条が宣戦布告をした際、この白鯨で日本からの離脱を図った。

 そして、その成功によって中国軍の襲来を避けたのである。


 大地は割り当てられたベッドに横たわっていた。狭いもので、面積は大人一人分、高さは座高程度しかない。

 そんなところに、彼の小隊員である塩見がやってきた。

「おう、浮かない顔してどうしたよ大地」

「姐さんじゃないっすか」

「姐さんと呼ぶな」

 相変わらずの夫婦漫才である。

「んでどうしたんだよ」

 塩見はイライラしているようで、頭をガリガリとかきながら聞き直す。

「日本軍に古い友達がいたはずなんですよ。そいつが大丈夫かなって思いまして」

「そいつは強いのか?」

「それはわからないっすね」

「じゃあ知らんな」

「ひどいな姐さん」

 大地の頭に拳が入った。

「いってぇ!」

「まあ知らんが……多分大丈夫だろ。こっちにはそれより大事なことがある」

「ええ、わかってますよ」

「それが成功すれば、死んでても報われるだろう」

「そういうもんすかね」

 釈然としない大地。

「そういうもんだ」

次回の更新もしかしたらお休みするかもしれないです。すみません。

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