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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第四章 Allies激動
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難局

 

「出せる戦力は全て出せ!迎撃だ!」

 東条は檄を飛ばす。間違えてしまった自分を声でかき消すように大声で。そして、なんとしてもAlliesに――西馬に頼らないように。

 その表情は、焦り一色だった。

 副官たちも感化され、落ち着かない様子だ。


 ほどなくすると、滑走路から戦闘機隊が飛び上がっていく。一機、また一機と離陸していくたび、心なしか救われたような気分が強くなる。

 また、全国の基地から応援が集結しつつあった。


 その中で、前線からの報告が次々に上がってくる。どこからも、伝わってくるのは悲惨な状況ばかり。

 先ほど一瞬救われたと思ったが、またしても足元が崩れていくような不安と焦燥に襲われる。そして、そんな混沌とした思考の中に突き立てられた西馬の言葉。

『――さもなくば日本は滅ぶ――』

 嫌らしいほどに頭にこびりつき、離れないあの表情。東条に苦い記憶を植え付けたあの真っ白な機の記憶。それらが相まって、実に気分が悪い。東条の頰を冷たい汗が伝っていく。


 不安と焦燥は、次第に苛立ちへと変わっていく。



  * * *



 Allies前線基地にも、日本が攻撃を受けているという情報が入ってくる。屯所に詰める兵たちは、東条らと同じような表情で戦況を見守る。

 自分が参加できれば、と皆が思っているが、誰も口には出さない。自分の意思でついてきたのだから、不義理なことはしない。

 ただ唇を噛んで待つのみだ。


 西馬はそんな空気を変えようと思ったのか、傍にいたオペレーター、朝比奈澪(あさひな れい)に話を始めた。

 メガネの似合う、二十代後半の女性だ。

「そういえば、議会が日本支援を渋った理由知っているかね?」

「いえ、知らないです」

 青みがかった髪を揺らしながら言った。

「推測の域を出ないがな」

 西馬は腕を組む。


 曰く……。

 平和連諸国は未だ中国に対する苦手意識が抜けておらず、決定が感情に支配されている。

 強引に独立した今でさえ関係は劣悪と言っていいにもかかわらず、参戦すればこれ以上の悪化は避けられない。

 もし平和連が武力、サイバー、経済の三方面から攻撃を受ければ、存立が危うくなる。


「これが間違ってないからタチが悪い」

「それここで言って大丈夫なんですか?」

「あっ」

 平和連に加盟しているほぼ全ての国からやってきた軍人が居るここで、その政府に対する批判のような発言をしてはまずいことになるのは請け合いである。

 西馬は慌てて周囲を確認した。

 どうやら、皆仕事に集中していて聞いていなかったらしい。そうとわかると、背もたれに体を預ける。

「……伊達に年はとりたくないもんだな」

「さすがにそれは無理があります」

 歳のせいにするには溌剌(はつらつ)とし過ぎている西馬である。


 日本が今まさに攻撃を受けている焦りが原因だろうか。

 西馬の笑みは些か苦しげだった。



  * * *



「出雲基地からの通信途絶!」

「高松空港が制圧されました!」

「すでに二中隊が戦線を離脱、迎撃機の数が足りません!」

 司令室に移動した東条を待っていたのは、危機を告げる言葉の嵐だった。その小綺麗な部屋とは裏腹に、叫びのような声が飛び交う。

 その酷さに歯噛みした。

 ヅカヅカと音を立てるように歩き、自らの席に座る。すぐに戦況報告のログを確認した。


 並ぶのは被害を知らせる文字列ばかり。

 向かわせた戦闘機も数が足らず、中国軍に物量で押し切られているような状態だ。いくら性能やパイロットの練度が幾分か優っていても、限界があった。

「戦術機師団はどうしている?」

「基地直属の隊以外は現在移動中です。戦線に加わるまでには多く見積もって三十分ほどかかるかと」

 戦端が東に動いていくであろうことも含めて考えられたその予測はきっと正確なはずだ。

 なんとも短いような長いような時間である。



「第四師団を出せ!」

 咄嗟に思いついた案をすぐに命令する。第四師団だけは待機中だったはずなのだ。

 あまり好きではない牛島に頼むのは癪だったが、この際仕方がない、西馬にすがりつくことの何倍もマシだ、と自分に言い聞かせた。


「……連絡が……つきません」

 通信員が、覇気を失った声音でそう答えた。

「なんだと、どういうことだ!?」

 東条は動揺したそのままに通信員に問う。

「わかりません、反応がないんです」

 何度も呼びかけ、今もコールし続けているようだ。青白い顔で、必死に。

「……クソッ」

 静かに毒を吐いた。


 第四師団が駐屯する入間基地はもぬけの殻だった。全くと言っていいほど、何もなかった。

 書類の一枚、ペンの一本も無い。

 だが、師団長室の机の上に一つだけ物が置いてあった。

 それは、中将の階級章と徽章(きしょう)類の束だ。牛島のものである。


 言葉がなくとも「貴様には愛想が尽きた」とでも言うように鎮座している。

 徽章の星が、暗い部屋でよく光っていた。


ラノベを買いすぎて財布がどんどん薄くなっていきます。辛いです。

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