忠告
次いで日本軍のレーダーも、東進する大部隊を捉えた。慌てずに、毅然と報告を受ける東条。
「丁重にお迎えしろ」
「はっ」
きっぱりとそう命令した。伝令を帰し、南向きの大窓から西の方角を見る。
雲の多い空だった。
「ようやく、か」
腕時計を確認する。時刻はちょうど十時。予定通りである。やけにこれまでが長く感じたのは気のせいだったようだ。頭をぽりぽりとかく。
彼の表情は穏やかだった。
そのまま西を見ていると、空の一点が光ったように見えた。目がどうかしたのか、と眼を擦るが、時折光るそれは変わらない。
次第に大きくなっていく点。
それがシュトラーフェだとわかる頃には、目の前にまで迫っていた。
東条の目前で止まった衝撃波で、ガラスがビリビリと悲鳴をあげる。耐え切れず、大きな音を立ててガラス窓の一枚が粉々に砕け散った。
東条本人は唖然としている。
シュトラーフェが後ろを向くと、コックピットのハッチが開かれた。そこから立ち上がる人影。
現れたのは西馬だった。
「久し振りだな、東条」
「貴方は……西馬"元"室長……。今更なんの用があってここに!」
東条は、そうとわかった途端怒気をあらわにした。彼は西馬を逃げ出した裏切り者だと見なしているようだ。
「話がある」
槍のような言葉を受け流し、本題に入る。
「Alliesの司令官が、日本軍総司令の私に、ですか?」
嫌味ったらしい口調だ。西馬は相当なヘイトを集めているらしい。
「そうだ」
「勧誘ならお断りですよ。私は国を棄てるような事はしないので」
「そんな事ではない」
「ではなんですか、激励でもしに来たんですか」
「すぐに防衛体制を整えろ。Alliesに平和連を経由して支援要請を出せ。さもなくば日本は滅ぶ」
確信したような西馬の物言いに、東条は目を鋭くさせる。
「何を言っているんですか?」
「これから起こる事だ」
「さっぱりですね」
ため息を一つついた。
「貴方が逃げている間に、私がどれだけの努力を重ねたと思ってるんです!?所有している技術、資源、その他諸々まで差し出して取り付けた確約ですよ!破られるわけないじゃないですか!」
顔を紅潮させ、声を荒らげる東条。
「お前こそ私を見くびるな。逃げていたと思ったら大間違いだ。日本に拘ることと日本を守る事は違うとわかれ」
冷ややかな口調で続ける。
「お前は中国を知らない。アジア連合の内部を知らない。その程度でよくもまあ確約なんて言い切ったものだな」
「なにを……」
東条は返す言葉を失った。
その実、彼自身も一抹の不安を抱えていたのだ。得体の知れない王政国家。未だ天井を知らず、成長を続ける大国。
信用に足るのか、信頼できるのか。
強引に疑いの心を捩伏せ、取引を行ったのだった。
「信じろとは言わん。どうせ無駄だからな。だが、何か思うところがあるのなら、言ってこい。我々Alliesは協力を惜しまない」
力強い言葉。
「……西馬さん、そろそろ始まります」
その時、コックピット内から声が聞こえた。頷きを以て応える西馬。
「では、失礼」
西馬はコックピット内に戻った。ハッチが閉まる。
閉まり切ると同時に、ものすごい加速力でシュトラーフェは去っていった。
残された風の奔流に身を巻き上げられそうになりながらも、東条は忌々しげな目でその姿を見つめていた。
タイミングよく、部屋の扉が開かれた。
「報告! ……あの、これは……」
部屋の惨状を見て、伝令は不思議そうな表情を浮かべた。
「気にするな。それよりなんだ」
「はっ。中国軍爆撃機隊が岩国基地を攻撃。同基地は壊滅しました!」
驚いて声が出なかった。
歯を食いしばり、そばにあったテーブルを思い切り殴った。
「畜生!」
* * *
「言ってきますかね」
「わからん。だがこれ以上は何もできんさ」
狭いコックピットの中に二人。窮屈である。
「議会をもっとうまく説得できたら、と思うけども、こればかりはしょうがない」
西馬は嘆息した。
議会に何とかして認めてもらうため、足繁く通った西馬。その熱意から、『日本から正式な救援要請があった場合には構わない』とまで言わせた。
そして、このままでは絶対に救援要請は来ないと確信した西馬は、このような行動に打って出たのだ。シュトラーフェの隠密性と高速性あってこそである。
蓮二が西馬からこのことを頼まれた時は、少し嬉しかった。単純に、尊敬する人から頼み事をされるのは嬉しいものだ。
「来るかどうかもわからないのに待機させていいんですか?」
「ああ、些かわがままが過ぎたような気もするがね」
現在台湾では、Alliesのほぼ全戦力が待機している。これが、西馬の言う全力なのだろう。
果たして救援要請は来るのだろうか。
グラコロが美味しいので世界は平和です。




