地団駄
「馬鹿野郎……!」
谷から東条の思惑を聞き、西馬は憤慨した。
「これでは日本が……ッ」
「落ち着いてください、西馬さん」
ちょうど報告の際に同席していた索が必死に宥める。
「しかしだな……」
「国体が保たれるかどうかはともかく、筋は通っています」
索は強い口調で西馬に言った。
「……たしかにそうだが……」
「国民さえ無事ならば、大丈夫です」
もとより国の存在意義とは、国民に富を分配することにある。愛国心はさて置いて、その本質である"国民を豊かにする"ことさえ出来れば、国としては成功なのだ。
「一度落ち着いてください。今考えるべきなのは中国です」
「どういうことだ?」
西馬は抱えていた頭を上げ、視線で索に説明を迫った。索は冷静に答える。
「あの中国がなんの打算もなくこういった取引に応じるとは思えません。絶対に策略があります」
内情を知り尽くしているだけに、索の言葉は真に迫っていた。
「具体的に言えば、日本の属領化などです」
西馬は絶句した。
焦りと怒りから、頭が回っていなかったのだろう。普段ならその程度は考え付くはずだ。
「……あり得ないとは言えないな」
まさにその通りだった。
中国の二枚舌外交は、外に知られていないものの、アジア連合諸国にとって毒針のようなものだったのだ。
現アジア連加盟国の半数は、この中国による政治的、経済的な謀略によって、アジア連合に加盟せざるを得ない状況にさせられたのである。
その上資源の元栓を握られた上でそのあたりのことを口封じされており、一向に被害者は減らない。
そんな事はつゆ知らず、東条は計画を進めていっていた。
* * *
西馬は再び連合議会へ赴いた。もう一度、意見具申をする為だった。
前回よりも周到に用意をし、望んだ西馬だったが、結果は以前と変わらず。危急の議題ではない、という態度に終わった。
「私たち連合議会は連合の事を一番に考えているのだ。加盟していない国についてを考えるとすれば、それは外交だけである。あまり私情を挟むのはやめてもらいたい」
とお灸を据えられる始末。
ここまで言われると、もう反論はできない。
* * *
「だったら俺一人で行けば……」
「ダメに決まってんでしょ!」
以前と同じような考えの蓮二を結が軽くひっぱたいた。
「いてっ」
「蓮二はもう一兵卒なのよ? 二人で戦ってた頃とは違うの。この意味わかるでしょう?」
大規模な組織の一員である蓮二に、単独行動が許されるはずはないのだ。しかも戦闘集団とあれば、軍と同じ扱いである。
力を持った者が野放しになれば、それだけで危険な存在と捉えられかねない。
「Alliesの看板なんだから、ちょっとは落ち着きなさいっての」
「富士川時代の思想が抜け切ってなくて」
「言い訳は無用」
「はい」
そんな二人のやり取りに、守は笑った。
「結は逞しくなったな」
「褒められてる気はしないよ」
「一応褒めてるんだけどな。蓮二は必死になった?」
苦笑いしつつ、蓮二に問いかける。
「しばらく前からそうだと思うぞ」
「再確認だよ」
「……そうだなと言っておく」
守は穏やかな笑みを見せた。蓮二と結は、そこに悪くない変化を見出したようだ。
「元気そうだな」
「ね」
* * *
そして、数週間後のある日。
ヒマラヤ山頂に設置された広域警戒レーダーは、中国上空を東へと向かう大編隊を捕捉した。
戦闘機、爆撃機、拡張戦術機その他総数一万ほど。
「ついに来ましたね」
索は冷ややかな声でそう呟いた。いつもは西馬の傍に控えている索だが、今日は一人、管制室を掌握する権限を行使していた。
西馬どころか、ほとんどの兵がその基地にはいない。
「さて、どう転ぶんでしょう」
計画の全てを知っている索は不敵に笑う。
ちょっと短くなってしまいましたがお許しください。




