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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第四章 Allies激動
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相談室

 

 索 有人は廊下のベンチに身体を預けていた。そんなことをしているのは、日頃の疲れからか、体調の悪さか、それとも弟のことか……。

 何にしてもあまり見せない様子であることは変わりなく、そばを通る人たちは微妙な顔で彼を見る。そして索だと気付くと、一様に意外そうな顔をするのだ。


 それは、西馬も同じだった。

「珍しいな」

「え? あ、西馬さんでしたか、どうも」

 何故か緑茶の入った湯呑みを片手に歩いていた西馬は、索の隣にどっかりと腰を下ろす。

「どうした?」

 生来部下を大切にする性格であるため、再編成されてから長くないAlliesの中でも信頼を築き始めている西馬であった。

 索は暗い顔をいくらか明るくして答える。

「ちょっと悩み事がありましてね……」

「良ければ聞かせてくれないか」

 こんな具合である。


「それでは……」

 このように、聞かれると皆一様に話してしまうのだ。

「アジア連から独立させた時、何人かを捕虜としたじゃないですか。シュトラーフェやペルソナらに潰された方の、です。簡単に言うと、そのうちの一人が弟なんですよ」

「……そういえば、弟がなんとかって言っていたな」

 西馬は思い出したようで、何回か頷いた。

「見に行って捕虜になっていることが初めてわかったんですけどね。それで、会ったら『レジスタンスに入れてくれ』なんて言うもんですから」

 そう言って、索は苦しげに笑った。

 それを西馬は笑い飛ばす。

「はっはっは、大変な弟を持ったもんだな」

「本当ですよ。小さい頃甘やかし過ぎたのがいけなかったんでしょうかねえ……」

「お兄ちゃんも難しいもんだな」


 感慨深げに、湯気が立つ茶を啜った。

「あっつ……ただ、そう育ったのが君の責任ではない事は確かだぞ」

 何事もなかったこのように話を続ける西馬。

「それはそうなんでしょうけど……」

「弟なんて甘やかしてなんぼだ。きつく当たった方がダメだろう。才能を育んでいく最中だと言うのに」

「まあその兄が反社会的勢力に参加してるのは色々問題あるわけですが」

 索は自虐的な笑みを浮かべてそう言う。その言葉を聞いて、西馬はわざとらしくムッとした表情を浮かべる。

「Alliesを反社会的勢力と評されるのはあまり良く思えないぞ」

「あ、いえ、すいません。そういう意図はないんです」

 索の視線は、次に言うべき言葉を探して虚空をさまよう。

「わかってるよ。冗談だ。続けてくれ」

 西馬は制すように手を振り、先を促した。


「それで真っ直ぐに、『恥ずかしい』って言っちゃったんですよ私。頭に血が上ってたんですかね」

「弟にとっちゃ耳が痛い話だな。客観的に見ればそう言ってしまうのも仕方ないと思うが」

 白髪混じりの短髪をさすり、西馬は呟く。

「そうまで兄に心配してもらえるだけ弟はマシさ」

 西馬からは、普段漂わせる哀愁とは異なった雰囲気が見て取れた。



  * * *



 アヴァロニア軍首脳陣にとって、現在のアジアは蠱毒の占いのようなものだった。

 日本、平和連、アジア連合の三勢力が狭い土俵でひしめき合っているのは、毒虫が小さな器で蠢いている様子にそっくりである。

 そこへ介入して全て叩き潰すか、戦いが終わり疲弊した生き残りを襲うか。はたまた放置か。

 軍内では、意見が対立しているところであった。


 介入派は、『戦争が起きるかどうかもわからない上、泥沼化する可能性の高い案では安定を望めない。また、もし三勢力が同盟を締結するようなことがあれば、今後の世界展開に支障が出る』と主張している。

 待機派は、『わざわざ払わなくてもいい犠牲を無視して武力介入する必要はない。最も被害の少ない案を選ぶべきだ』と。

 放置派は、残りの先の対日戦で完全に意気を失った者たちである。最も数が少なく、発言力も弱い。また、他の二派閥が積極的に"敗北主義者"だの"臆病者"だのと蔑み喧伝(けんでん)しており、肩身がせまかった。


 対立をより一層深めているのは、大統領アダムスがそれに対する一切の態度を示していない、という状況だ。

 ある時点からメディア露出を避け始め、現在では、滅多にお目にかかる事はできない。

 国民やマスメディア、官僚らからは不審な目が向けられているが、そこは独裁の強みでねじ伏せられているようである。

 評論家や法律家は、何か情報を集めようと日夜駆けずり回っているものの、まともな物は入ってこず、辟易していた。




 ダグラス・パットンは、どちらかというと待機派の人間である。日本での手痛い敗戦があったと言うのに、放置派に属していないのは賞賛できるところだろう。

 今のところは何か発信することもなく、全く行動を起こしていない。一部の軍人からは陰口も聞こえるようになった。


 だが、彼の目は曇っていない。

 むしろ、爛々と輝きを放っている。

 一軍の将が大人しくしているのは、結果を待っている時と、水面下で何かを起こしている時である。


 今回の場合は後者と言えた。

 何が起きているのかは、まだ語るべき時ではない。

西馬はコーヒーでも紅茶でもなく緑茶が似合うとキャラを作った時から思ってます。

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