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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第四章 Allies激動
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家族

 

「ねえ、蓮二知らない?」

 作戦から帰ってきた次の日、結は蓮二を探して歩き回っていた。そこで守にばったり会い、蓮二の居場所を聞いたのだった。

「そういや見てないな」

 守も気になっている様子だ。

「帰ってから会いに来なかった事なんて今までないのにね」

「だな。んー、いるとしたら自分の部屋だろ」

「やっぱりそっか。ちょっと行ってみる」

 結は軽快に駆けていった。


 蓮二の部屋の前までやってきた結は、あるものを目にする。扉の前に座ったシュトラーフェの姿だ。

 歩み寄っていき、問うた。

「あれ、シュトラーフェちゃんどうしたの?」

「ああ、結か」

 膝を抱え俯いていたシュトラーフェは、顔を重そうに上げた。

「蓮二は?」

「朝起きてしばらくしたら、やっぱりちょっと一人で考え事をさせてくれって、な。心配だからここで待っている」

「何かあったの?」

 今はもう昼前の頃合いである。数時間もここで待っているのだろうか。

 シュトラーフェが口を開く。

「……私は、過ぎたことをしてしまったのかもしれない」

 そう言って、観念したような顔で再び俯いた。

 結は温かな眼差しでシュトラーフェを見つめ、そして隣に座る。

「私にも待たせて?」

「構わないが……」

「それと、何があったのか聞かせてほしいな」

「……わかった」

 シュトラーフェは、昨夜の顛末(てんまつ)を全て結に話して聞かせた。結は、時々相槌を打ったり、頷いたりしながら、訥々(とつとつ)と紡がれる言葉を聞いた。


「なるほどね」

「夜は大丈夫だったんだが、本当に朝から急に変わった」

 結は唸りながら、考えるように視線を上げた。

「そういえばね」

「ん?」

「私も、家族の記憶無いんだ」

「えっ……?」

 突然の告白だった。

「蓮二とか、守とかにも言ってないんだけどね。子どもの頃のこと、全然覚えてないの」

 どこか達観した様子で、何事も無いように語る結。

 シュトラーフェは何も言えない。ただ、驚きの感情に身を任せることしか出来なかった。

「覚えてるのは、どこかのベッドの上の景色だけ」

 僅かに、瞳の赤へ悲しみの色が映った気がした。

「……皆、私と同じなんだな」

 シュトラーフェの中に芽生えたのは、同じような境遇の人が他にもいた、という安心感と、それを無意識に感じてしまったことへの罪悪感だった。



  * * *



 扉の向こうから聞こえる声。

 結とシュトラーフェだろうか。

 考え事でいっぱいだった頭を振って、耳をそばだてる。

 途切れ途切れで聞こえてくるのは、昨日の出来事。結が作戦中だった時の会話について話しているようだった。


『私も、家族の記憶無いんだ』


 その言葉が聞こえた時、蓮二は衝撃を受けた。

 今まで過ごして来て、その片鱗さえも見せることがなかった。確かに、結は以前から自分の事を話したことがない。一度も、だ。


 蓮二は、視線を落としていた机の紙から顔を上げた。

 そして、貼ってあった一枚の写真を見つめる。兵学校に入学した時、初めて小隊を組んだ三人の写真だ。結を中心に、傍に控える蓮二と守。

 いつ眺めても屈託のない笑みを浮かべているように見えていた結が、この時ばかりは翳っているように感じられた。


 二人の話し声が聞こえる扉を見る。

 先ほどと変わらない音量。

 蓮二はほのかな恥ずかしさを感じた。


 立ち上がり、扉へ歩いていく。

 ドアノブに手を掛けた。



  * * *



「シュトラーフェちゃんにも、聞いていい?」

 (おもんばか)ったのか、控えめに結は尋ねた。

「ああ。と言っても、何も覚えていないんだがな。意識が芽生えてからの事でも話そう」

 シュトラーフェは苦笑いしながらそう言った。

「気付いた時は空を飛んでいた。突然の事で何も分からなかった。でも、ひとつだけ、自分の中に使命があった」

「……蓮二を探せって?」

「そう。でも、どこに居るか分からない。そんな時、何かから位置情報と共に言葉が送られてきた。『そこにいれば会える』と。仕方なく私はそこへ向かった。やっぱり何もなくて、あたりを探してた。そうしたら、突然蓮二が現れたんだ」

「え?あの転移ってシュトラーフェがやったんじゃないの?」

 結は声のトーンを一つあげてシュトラーフェに聞いた。彼女は、シュトラーフェの仕業だと考えていたらしい。

「いや、違うが……」


 その時、二人を遮るようにして扉が開いた。中から出てきた蓮二が、目を丸くして言う。

「お前、まさか、朝からずっと待ってたのか?」

 外開きだった扉は、上手く結を隠すようにして止まっている。蓮二の視界にいたのはシュトラーフェだけだった。

「ああ」

 そう言いながら、何かを隠すように、蓮二に向いていた顔を膝に埋めた。

「そう、か……なんか、ごめん」

 蓮二は申し訳なさそうに後頭部をぽりぽりと掻く。

「……構わない」

 シュトラーフェは強く膝を抱え、小さな声で言った。


「私もいますからね!」

 扉からひょっこりと顔を出して、結が抗議の声を上げる。

「知ってるよ。話し声聞こえてたしな」

「うっ……」

「どうしたよ」

「聞かれちゃったなー……って」

 バツの悪そうに目を泳がせる結。

「俺の事もシュトラーフェから聞いてるんだろうからお互い様だ」

「そうだけど……」

「それと、なんかごめん」

「別にいいよ。勝手に待ってただけだし。そんな待ってないし」

「損した気分になった」

「ひどいな」


 言い合いを始める二人に、シュトラーフェが割って入る。

「蓮二」

「ん?……ああ、大丈夫だよ」

 蓮二の表情からは、暗さがいくらか抜けたようだった。

「部屋にこもってうじうじしてるより、みんなといた方が良いかと思ってさ」

「んじゃ、ご飯いこか」

 結は笑顔を浮かべて言う。

「そうだな」

 シュトラーフェも、結と同じような笑顔を浮かべて言った。

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