不吉
待機命令が解除され、二人が別々のベッドに入ってから数時間が経っただろうか。蓮二はまだ起きていた。シュトラーフェと話して、だいぶ気が紛れたと思ったのだが、どうにも違うらしい。
目は冴え、睡魔が訪れる事もなく、ただ布団にくるまった状態でぼうっとしていた
冷静になってみると、先ほどの会話では何も解決していない事に気がついた。ただ慰められ、ほんのわずかな希望のようなものに縋っただけなのだ。
家族のことが何も思い出せない、という事実は何ら変貌を遂げていない。
シュトラーフェが元気付けようとしてくれたのは手に取るようにわかった。だが、素直に甘えられなかった。自分という存在が全て嘘偽りだったような、自分を作り上げてきたものが根底から崩れていくような感覚。それに支配されたのだ。
蓮二は身震いした。
恐怖か、冷えか、心細さか。
急に寂しくなった。
近くにシュトラーフェがいるというのに。
その事に気がついて、自分の都合の良さが嫌になりそうだった。
もぞもぞと布団の中で体を転がす。自分の四肢にしては、やたらと遠のいたような感覚が返ってきた。
次第に辺りが気にならなくなり、意識は深い谷底へと没入していく。眠りなのか、闇なのかわからない。わかったところで止まるはずもなく、蓮二は暗い暗い下へと落ちていった。
そんな蓮二が、シュトラーフェの寝息が収まり、目が開いていた事には気付くわけがなかった。
* * *
時を少し遡る。
位置を決めた結は、桜花を滞空させる。
偵察機の追跡をやめ、来るであろう追っ手を受け止めるつもりだった。
「こちら桜花。敵機は超音速機のため、撃破は困難と判断。予想される敵追撃部隊の迎撃に備えます」
『了解した。出来るだけ時間を稼いでくれ』
「はっ」
結は一人になった。
自分が出られなかった戦いも、彼はこうして戦っていたんだな、と思う。
経験してみると、心細く、少しだけ怖い。大海原を一人で漂うような、そんな気分だ。だが不思議と落ち着いている。
あの時の蓮二も、そんな思いだったのだろうか。結にはわからない。わからないが、置いていってしまった過去の蓮二に軽く詫びた。
しばらくすると、日本軍基地から月光が上がってくる。数は少なく、特に注意せずとも撃破可能だ。
「月光が弱く見えるなんてね」
桜花の操縦桿を握りながら呟く。
「桜花は、強いね」
機に語りかけるように言った。
もう何ヶ月も桜花に乗っている。愛着も湧いてくる頃だろう。
もちろん返事は無い。それでも、なぜか結は嬉しかった。
「さてと、頑張りますか!」
* * *
人々を乗せた輸送機は、無事Allies傘下の地域へ戻ってくることができた。結も、後に続いて桜花とともに無傷で帰ってきた。
作戦は予定通り、一つの損害もなく完了。
Allies幹部は皆嬉しげな表情だ。西馬一人を除いては。
彼は、今の作戦結果より先のことを気にしていた。すなわち、生まれ変わった日本軍の動向である。
同志の危険という憂いを断つことができた今、西馬が考えねばならないのは今後の展望である。
最も重要なのは、日本の動向だろう。自分の古巣であり、部下たちがいるのだ。
私情を抜きにすれば、警戒すべきは中国だが、西馬はどうも最重要事項に中国を据える気にはならなかった。身内の特別扱いは、誰もが簡単には捨てられないものである。
これが、会見など公式の場だったら良くないことだろうが、Allies内なら誰も構わない。
そして、不安要素はそれだけに限らない。アジア連合から独立する際の戦闘に現れた、ペルソナと名乗る不明機も気にしなければならない。順調に見えて、由々しき問題を何個も抱えているのがAlliesである。
一方、連合議会では、中国への対応を協議していた。曲がりなりにも中国の影響下を離れ、あまつさえ新たな勢力として台頭しようとしている連合とAlliesを、彼らが快く思っていないことは自明である。ならば、今後何かしらの手段で攻撃を仕掛けてくると考えるのが妥当だ。
中国は大国である。正面からやり合えば、敗北は必至。いくらシュトラーフェでも、部隊全てをカバーできるわけではないのだ。一度戦端が開かれれば、シュトラーフェの居ないところから、数の暴力によって部隊が瓦解していく。
もちろんそれを狙ってくることは予想出来、議会はそれを、様々な方法で何としても避けるために、日夜激論を交わしている。
Alliesの総弁として、西馬も出席していた。
真剣に会議には参加しているものの、その表情はどこか虚ろである。
あいも変わらず、日本の事を考えているのだった。
もうちょっと戦闘描写を頑張りたいなと思ったりもします。




