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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第四章 Allies激動
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遁走

 

 前線指揮官からの無線が入る。

『収容完了まであと概算十分』

「了解」

 上がってくる報告に、守は身を震わせた。無論、もし戦うことになっても、負けるとは思っていない。

 この緊張は戦闘への不安からくるものではない。そもそも、見つかったその時点でこちらが不利な状態である。

 自分を取り巻く状況が、外的要因によってのみ決定されるのは、どうしても怖いものだ。まるで、手足を拘束され、真綿で首を巻かれ絞められる寸前のような感覚を覚える。


 十分という時間は、普段過ごしていれば、何気ない雀の涙ほどの時間だろう。それが何倍にも、何十倍にも感じられる。

 秒針の動きがやたらと遅く見える。

 鼓動が早く聞こえる。

 レーダー上の光る点が近付いてくる。

 守は落ち着かなかった。


 三十分にも感じられるような時間を過ごすと、守のもとへ連絡が届いた。

『収容完了。これより帰投する』

「了解」

 間に合った、と安堵し、息を漏らす。


 しかし、それは一瞬で断ち切られた。

 レーダーによる被探知を知らせるブザーがけたたましくなり始めたのだ。

 思わず飛び上がるように体を硬ばらせる守。

「こちら風花!発見されました!」

『桜花も同じです』

『了解した。生憎こちらの機体にはシステムが無く発見されたかは不明だが、二機の方が塗料を塗っただけのこちらよりステルス性能は上だろう。発見されたと見るべきだな』

 前線指揮官は冷静に状況を分析しているようだった。


 VTOL機には、隠密性を上げるために電波吸収塗料が塗布されていた。ないよりはマシだろう、という程度で、期待できるようなものではない。

『桜花は偵察機への攻撃を頼む。風花は万一のために護衛を頼みたい』

『了解。やってきます』

 結はすぐに機を翻し、レーダーが示す偵察機編隊へ暗い空を駆ける。場慣れしたのか、落ち着いた様子だ。

「わかりました」

 守は小さく返事をした。

 輸送機が暗闇に噴煙を撒き散らし、ゆっくりと高度を上げる。10mほど上がると、ローターを前面に向け、ヘリコプターには出せない速度にまで加速する。

 VTOLのメリットを全面に生かし、全力で逃げる。



  * * *



 闇夜の風を切り裂いて進む桜花。発動機が赤い燐光を撒き散らし、桜花のシルエットを浮かび上がらせる。

 それは、まるでライトアップされた夜桜のよう。静謐で荘厳な輝き。黒い背景に赤い尾を引く紅。もし兵器でなかったなら、美しくも感じられるだろう。


 対するは、97式超音速高高度偵察機 陣風(じんぷう)である。最高速度マッハ3、巡航速度マッハ2.5を誇り、敵地深くへ侵入し、情報収集を行う航空機だ。

 また、早期警戒管制機としての機能も備えており、コストパフォーマンスに優れている。

 早期警戒管制機というのは、大出力のレーダーで友敵の位置など戦場全体を把握し、指揮に役立てるために制作された機種である。

 そのため武装は備えておらず、戦闘には向かない。


 結は、逃げられてしまうだろうと考えていた。

 桜花が出せる最速は、せいぜいマッハ1.3ほど。

 今こそ偵察機は捉え得る速度で飛行しているものの、接近すれば間違いなく増速する。全速を出されでもしたら追い付けないのだ。

 こんな時に実感するのが、シュトラーフェとの差。彼女ならきっと捉えられただろう、と結は思う。

 切っても切り離せない羨望。

 少しずつ、彼女の中に羨みが溜まり始めた。


 きっと、敵発見の打電はもうなされているだろう。そう思って、長距離ミサイルを三発放つ。

 そして移動し、日本軍拡張戦術機師団が駐屯する基地を探知可能圏内に納めた。



  * * *



 ベッドに横たわるシュトラーフェが軽く欠伸をした。

「蓮二の家族ってどんな人達だったんだ?」

「どんなって……んー、普通の家族だよ」

 意図をよく理解できない質問に、蓮二は曖昧に答えた。

「具体的に」

シュトラーフェが追い打ちをかける。

「えーっと……」

 蓮二が止まった。

 シュトラーフェは何もせず、じっと蓮二を見つめて言葉を待つ。

 時計の針が秒を刻む音が部屋に響いている。

「……わからない」

 ずいぶん長く考えた末の答えはそれだった。

「名前は?」

「………………思い出せない」

「誰も?」

 申し訳なさそうな、それ以上に絶望したような顔で蓮二は頷いた。それもそうだろう。自分を育てた、自分と共に育った最も(ちか)しい人達のはずの名前を思い出せないのだ。


「いや……妹……なおみ……?」

 突然混乱したような様子で呟き始める蓮二。

「なおみ……妹なんていたか……?」

 要領を得ない。

 静かに聞いていたシュトラーフェが口を開く。

「居たんだろう。でなきゃ、目に涙を浮かべたりはしないんじゃないか?」


 ――蓮二の(まなじり)から、雫が伝おうとしていた。

「そうかもな」

 そう言って笑った。

「会った頃のシュトラーフェは『……わからない』みたいな感じだったくせに」

「うるさいぞ」

 シュトラーフェも笑みを浮かべた。

焼肉うめえ

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