アジアの起立 乱
索は呆気にとられた。
何が起こったかを理解するまでに数秒かかった。その間にも、一人、また一人と味方は失われていく。
「小隊毎に散開!一対一で戦うな!」
ようやく平静を取り戻した彼は指示を飛ばす。だが、それが意味を成すかは別の話だ。
シュトラーフェの猛攻に怯みつつも、部隊は広がる。
それは無駄だった。
備え付けられたセンサーですらシュトラーフェの驚異的な機動に追いつけない。
たった数十秒で、索の戦意は後悔、恐怖にとって変えられた。
* * *
『制圧完了!』
「よし、二小隊は制圧歩兵部隊の支援に残れ!他は次だ!」
空を報告と指示が行き交う。伊上隊は合計六機を残し、現状を展開しておいた歩兵部隊に任せ、別の基地へと向かった。
伊上隊と暮那隊が向かうべき戦場は、全部で四箇所。いずれも爆撃に失敗した基地だ。
移動を始めた伊上隊を指揮する長谷のもとに情報が届く。
『司令より各員。現在こちらに中国からの援軍とみられる一団が接近中。シュトラーフェが止めに向かってはいるが注意されたし』
司令部から、作戦に参加する全員への通達だった。
長谷は檄を飛ばす。
「急ぐぞお前ら!」
ほぼ同時刻。
暮那隊も六機を残し、別の基地へと向かう。
西馬は手を力一杯握りしめながら一際大きなスクリーンを見つめる。リアルタイムで更新されていく数多の情報が所狭しと並んでいる。
――こういう時はいつも、罪悪感のようなものを覚えるのだ。
遥か彼方の空では、今も兵士達が命をかけて戦っている。地上でも同様だ。損害は今の所軽微だが、それでも死んだ人にはそれが全て。
総力戦の中、自分は安穏と空調の効いた部屋の中で佇んでいるだけ。無論、それを批判する者はいない。彼にしか出来ない事だとわかっているからだ。
西馬自身もわかってはいる。
それでも、西馬は辛さを感じる。
だからせめて、目は離すまいとスクリーンを見つめる。出来る限り勝てるような、生存率が上がるような作戦を立てる。
そんな思いが、彼の姿勢に表れていた。
「なんとかなりましたね」
索有人は心を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
「……一応、な」
「どうかしたんですか?」
暗い表情の西馬に、索は不思議そうな表情で目を向ける。
「いや、大丈夫だ」
「はあ、ならいいんですが」
二人の間にはしばしの沈黙が流れる。
* * *
シュトラーフェの周囲は爆轟で満たされていた。
五百居た中国軍もかなりの数が減っている。七割ほどになっただろうか。
敵が小隊毎に連携して戦うようになってから、撃破するスピードがいくらか落ちていた。
だが、焼け石に水。多少遅くなった程度でシュトラーフェに問題はない。
「このままの調子で行くぞ」
蓮二も好調のようだ。
「ああ」
シュトラーフェは嬉しげに頷いた。
「蓮二!何か来る!」
突然シュトラーフェが鬼気迫る様子で声を張り上げた。先程、中国軍の部隊を発見した時とは全く異なった様相だ。
「何かって……」
「わからない。ただ、ものすごく速い。私ほどではないが、今まで見てきたどの機よりも速い」
真剣な声音で言うシュトラーフェ。
「なんだそれ、どこから出てきた」
蓮二も次第に緊張し始める。
「わからない。所属も不明、機体のデータも無い。……なんなんだあいつらは……!」
レーダーに映る三つの影。
月光どころか桜花を超える速度でこちらへと迫ってきている。
「一旦離れるぞ!」
「頼む!」
蓮二はこの状況を危険と判断。すぐに混沌とした戦場から距離を取り、様子を伺う。
「……見えた」
肉眼ではまだ見えないが、シュトラーフェに搭載されているカメラは捉えたのだろう。
すぐに目に見えるようになる。
月光も霞むほど、光を吸収するような黒いシルエット。今まで見た機体のどれとも似つかないようなフォルム。邪悪にすら感じるその三機。
一直線にこちらへ向かってきていた。だが、そう捉えられるのは一瞬だけ。数秒も経たぬうちに近距離までやって来た。
何をするのか、と臨戦態勢で彼らを睨むシュトラーフェと蓮二。事態は二人の予想と大きく異なる展開を見せた。
シュトラーフェの仲間だと思い込んだのだろう、中国軍の一個小隊がその三機へと向かっていく。
攻撃しようとした瞬間、黒い機は消えた。
そして、そこに残されたのは爆炎のみ。
「第三勢力……?」
蓮二は訝しげに呟く。
「かもしれないな」
考えているうちに、黒い機体が中国軍機を襲い始めた。シュトラーフェもかくや、というスピードで撃破していく。
『聞こえるか、播磨君』
コックピットへ、西馬の声が響いた。
「はい。それで、これは?」
『我々もその三機が何者なのかは掴めていない。だが、このままAllies主力が彼らに攻撃されると非常にまずい。敵対するようであれば……その時は頼む』
重苦しい雰囲気を醸し出しながら、西馬は言った。
それもそのはずだろう。彼らの機体性能はシュトラーフェに迫るほどである。それと、一対三で戦えというのだ。無茶な事は西馬もわかっているのだろう。
「わかりました」
『決して無理はするな』
「大丈夫です」
通信を切った。
ちょうど、中国軍機が殲滅されたのと同時であった。
いつのまに歩兵展開したんだ?って思った人は52話をご覧ください。




