アジアの起立 PERSONA
「敵の敵は……味方?」
「そんな簡単な話ではないだろう」
「わかってるよ。冗談だ」
蓮二の声は緊張からか少し震えている。軽口を言ったのはそれを意識しないように努めてのことだろうか。
その時、黒い三機のうちの一機から通信が入った。
「蓮二、どうする?」
「受ける」
「わかった」
蓮二は口を固く結ぶ。
『君が播磨君だね』
性別のわからない声だった。
名前が割れている事に、驚きを覚える蓮二。
「そうだが」
『遊びに来たよ』
突拍子も無い発言だった。
「……なんなんだお前」
警戒心をより一層強める。
『個体識別番号の話かい?それとも、愛称の話?』
「何者なのかと聞いている」
『哲学的な話は嫌いじゃないね』
蓮二は次第に鬱憤が溜まり始めた。
「そういうことじゃない」
『じゃあ、ぼくの事はペルソナって呼んでよ』
「ふざけないでくれ」
『ふざけてないよ。これが今のところのぼくの名前さ』
人をおちょくるような声音でそう言った。
「……じゃあペルソナ。お前は何をしに来た」
一瞬の沈黙。
『だからさ、遊びに来たんだって』
突如、中央に居た機が袈裟斬りを放ってきた。
バスターソードのような分厚い武装が、音を優に超える速さで一直線に向かってくる。
シュトラーフェを断ち切るかに見えた。しかし、その程度でやられるようではシュトラーフェではない。それを難なく受け止めた。
『へえ、すごいね。さすがシュトラーフェだ』
「そんな事だろうとは思った」
『ありゃりゃ。読まれちゃってたか」
まるで日常の一幕であるかのように、ふわふわとした口調で掴み所のないペルソナ。
『楽しいね』
そう言いながら武器を構え直し、打ち込んだ。
剣戟が始まる。
「正気か?」
『正気だったらこんなことになってないよ』
「そうかもな」
鉄骨が打ち付け合うような音を立て、二機は剣を交わす。ペルソナはシュトラーフェのスピードについて来ていた。
幾度も火花が散り、刃を削り合う。
蓮二には、とても長く感じられた。
鍔迫り合いになったところで、蓮二は無線をミュートにする。
「何かわかったことは?」
「大体の機体性能は把握できた」
「どうだった?」
シュトラーフェは一瞬口ごもった。
「……三機が一度に来たら勝てない」
「厳しいな」
蓮二は顔を歪める。
しかし、ペルソナの奥に見える二機が動くことはなく、何もせずに滞空していた。
「本当に遊びに来たってか?」
「そうだろう」
「ふざけてんな」
「確かにふざけてる。でもそんなことは言ってられない」
今もシュトラーフェとペルソナの力は拮抗している。全力を出しているわけではないが、それでも警戒に値する出力だ。
* * *
「基地制圧は概ね完了。残すは二つのみです」
「そうか、よかった」
西馬は、言葉とは裏腹に顔を強張らせる。その原因が、現在シュトラーフェと対峙している所属不明機にあるのは自明だろう。
今も様々な手を尽くして情報をかき集めているが、一向に有用なものは入ってこない。
「伊上と暮那を向かわせましょうか」
索は西馬の様子を見て言った。
「そうだな」
だが、返ってきたのはどこか虚ろな返事。考え事をしているのだろう。
「伊上、暮那の二名はシュトラーフェの支援に向かえ。なお、敵機はシュトラーフェに匹敵する性能を持っていると見られる。十全に注意せよ」
『『了解』』
指示を終え、軽くため息をつく索。
「行動目的が読めん。威力偵察か、陽動か……撹乱か……」
西馬は唸りながら独り言のように言った。
「政治的意図も考えられます」
「そうだな……。中国軍を殲滅したところを見ると、最近関係が冷え込んでいるロシア、ヨーロッパ諸国……いや、奴らに今そんな余裕はないはずだ」
世界各方面に向け攻勢を強めているアヴァロニアへの対処に、各国は躍起になっているよだ。
「ちょっかいをかけるにしては妙な編成ですしね」
「わざわざ新鋭機をたった三機で出してくる意図なぞまったくわからん。相手は何を考えてる」
「テストだとしても、わざわざ他勢力に知らせてやる必要もありません。現にスペック情報がこちらに送られてきてます」
「となると……残る選択肢は一つしかない」
「そう、ですね」
急に声のトーンを低くした二人。
樹上から獲物を狙う猛禽のような鋭い目は、存在すら曖昧な"敵"を見据える。
* * *
中国南部上空。
「暮那、伊上と合流しました。これより向かいます」
『了解。気をつけろ』
二人は全速力でシュトラーフェの元へ飛ぶ。
「どういうことなの?」
結は守に訊いた。
『俺も言われた以上の情報は知らない。ただ、かなり危ないだろうな』
「うん、そうだね」
結の表情は冴えない。
『正直行くのは怖いけど、命令があったならなおさら蓮二を一人にしておくわけにはいかない』
守の言う通りだった。結も同じように考えてはいる。
「でも、シュトラーフェに匹敵する強さだよ?私達が行っていい事ある?」
『それは……』
結のまっすぐな言葉に、守は返す言葉を失った。
「命令があったんだからもちろん行くよ。でも、少し気がひける」
『……確かにそうだな。だけど、そんな弱腰じゃ勝てるものも勝てない』
「わかってるんだけどね……」
結はため息をついた。
* * *
シュトラーフェとペルソナの戦いは、まだ続いていた。終わりそうになかった。
いつになっても、ペルソナが従える二機は動く様子はない。
「聞いていいか」
『なに?』
蓮二は尋ねる。
「後ろの奴らは何してるんだ?」
『待ってもらってるんだよ。三対一はフェアじゃない』
「フェア……ねぇ……」
ペルソナの斬撃をいなすように躱し、正面から剣を振り下ろす。
『重要だよ?』
刃が届く前に、ペルソナは間合いから逃げる。
「そうかよ」
操縦桿を握りなおす。
「まるでゲームだな」
『そうかもね』
ペルソナは笑った。
ペルソナっていう名前を思い付くまでかなり時間かかりました。




