Government
「今のところ他に質問とかは……ありませんね。進めます」
索は手元に目を落とした。前々から資料を作っていたようだ。
「そこでですね、そう遠くないうちに非公式ではありますが会談の場を設けようと思っています」
「それは、国の首脳と、という事ですか?」
参加者の一人が手を挙げて問う。
「いえ、いきなりそこまでは不可能です。先方に確認してはいませんが、ひとまずは次官級ではないかと」
「妥当ですね」
「うちからは播磨君と長原君を出す予定だ。無論索氏には同席してもらう予定だが、二人とも大丈夫だな?」
蓮二は、突然西馬に話を振られ驚いた。
一方、長原と呼ばれた男は落ち着いた様子で言う。
「お任せください」
長原孝。先日も、反町と共に参加していた制服組である。現在日本政府で外交官を務めており、交渉ごとには長けていた。
「あの、質問なんですけど、なんで私が行く必要があるんでしょうか」
主だった説明もなく突然指名され、困惑していた蓮二は訊いた。
「君はAlliesの顔だからね。居てくれないと困る」
西馬はさも当然のように言う。
「はあ……わかりました」
なんとなく蓮二にとっては承服しかねるような内容だったが、これ以上食い下がるのも憚られた。
「日程の方はこちらで詰めておきます。御二方のご予定をあとで教えてください」
「わかりました」
「私の方は特に何もないので気にしなくて大丈夫です」
自嘲気味に言う蓮二だった。
* * *
数日後、初回の会談は好印象を以って終えられた。
今後の協力を約束。そして、連合からの脱退を視野に活動を共にしていくことを確約した。
いずれにしても、明文化はしていない。"国がレジスタンスと内通している"なんて書類が暴露されればろくなことが起きないのだ。
きっと、マスコミがやんややんやと騒ぐに違いない。そうなれば面倒どころでは済まない。
計画が根本から倒れる事も無いとは言えない程である。
アヴァロニア大統領、アダムスは不機嫌だ。ストレスからか、最近はよく眠れない。
そのストレス源として思い当たるのは、最近アジア連合で裏工作を始めた何者かである。
IGAからの報告によると、こちら側が予定していたルートを全て先回りされていたようだ。
本来ならレジスタンスと接触し、アジア連合の切り崩しを行うのはアヴァロニアのはずだった。
アダムスは不機嫌である。
先程から来ていた事務官に当たりそうになる程だ。
耐えきれなくなったのか、執務机のそばにあるゴミ箱を蹴っ飛ばした。中身は回収したばかりなのでご安心なのだ。むしろ、蹴っ飛ばすために用意されたようなものである。
そんな御誂え向きダストボックスを蹴っ飛ばしたところで、事務官が呟いた。
「大統領、大丈夫ですか」
その声音は畏怖の念を孕んでいる。
「大丈夫ではない、と言ったらどうにかしてくれるのかね」
「……いえ、すみません」
「まったく、あの方々は私の苦労が分かっているのか」
「あの方々、とは?」
しまった、と一瞬アダムスは狼狽えた。自分しか知らない機密事項だったものを、軽はずみに言ってしまった。半ばヤケになり、まだ若い彼に話す。
「……君が生死を共にしてくれるというなら話してもいい。時に知的好奇心は自分を殺す。どこぞの科学者のようにな」
「構いません」
毅然とした態度だった。
「わかった。……他に人影はないな」
そう言いながら、アダムスは周囲を見回す。
「君は、我が国が帝国を名乗っている意味を知っているかね?自由を掲げるこの国において、独力で独裁を敷けると思っているかね?」
重苦しく、固い、しかし確かにはっきりと言った。その時、事務官にはアダムスが驚くほどに小さく見えた。大きな影に押しつぶされるように、重石がその双肩にのしかかっているように。
そして、その全てを理解する。
「思ってもみませんでした」
口を開くまでに時間を要した。
「今の私は大統領でありながら、国を牽引する立場ではない」
「理解しております」
「……君はしばらく酒を控えたまえ」
「わかりました」
アダムスは大きくため息をつく。
「それでは、失礼します」
「ああ」
緊張した面持ちで、その事務官は部屋を後にした。
残ったアダムスは一人嘯く。
「自由とは……なんだろうかね」
先程まで会っていた事務官が交通事故で死亡した事を、彼が耳にするのは翌日のことだった。
* * *
「大統領、よくない噂を耳にしましたよ」
ドアを開けるなり、入ってきた男はそう言った。彼の名はエリック・ディクソンと言った。
世界に名を轟かせる重機械工企業、アストロ社のCEOを務める、俗に言う富豪だ。
「何の用だね、私は忙しいのだ」
アダムスは辟易したように気怠げな返事をした。
「じゃあ一言で終わらせましょうか」
青い目をハットの中からギラつかせる。
「車にはお気をつけください」
それだけ言うと、帰って行った。
アダムスの手は震えていた。
その手で受話器を取り、ボタンを押す。
「……エリスはいるかね」
電話で副大統領を呼び出すアヴァロニア大統領の顔は、なにか覚悟を決めたようなものであった。
政治的でブラックな話が大好きな私です。自分で書いていてニヤニヤしてます。




