夜光
しかし、その事実が判明したところで、何かが起きるわけではない。調べようとは思うものの、ひとまず蓮二は棚にあげることにした。
行きに使ったエレベーターで展望フロアまで降りる。夜も深くなり、人影はまばらだ。
ふと、なんとなしに窓辺へ寄る。
闇に浮かぶネオン。
その一つ一つが人々の営み。
各々に道があり、人生があり、灯はそれらを照らす。良い方向であろうが、悪い方向であろうが、構わずに前を照らす。
この時間でも、商社ビルの窓からは光が漏れている。日本全土が解放されてから数ヶ月も経っていない今でさえ、すでに日常は始まっているのだ。
蓮二が国民の生活を守ったのは事実だが、どうにもその実感は湧いてこない。それどころか、いずれこの日常を壊してしまうのではないか、という不安に駆られる。
世界にとって戦うことが正解でも、一人一人にとって正解だとは限らない。全は個に適応できない。
戦争によって家を失う。国を追われる。命を落とす。
当事者にしてみれば、それが全てなのだから。
これから戦うであろう誰かも、今眼下に広がる町に住む人々と変わらぬ日々を送っているのだ。
――自分は一体、幾千、幾万の人生を潰すのだろうか。
――和平のために、どれだけの屍を積み上げればいいのだろうか。
その答えは、永久に出ない。
* * *
感傷に浸るのをほどほどに、蓮二はその場を後にした。
待たせていた車まで歩く。宇垣が快く貸してくれたものだった。もちろん運転手付き。偉い人になった気分の蓮二である。
あたりは、首都だけあってどこも明るい。意味があるのかと問いたくなるほどだ。
一陣の生温い風が髪を揺らす。
その場所に、車は無かった。
辺りを見回すが、それらしい影は一つもない。それどころか、人気も全くない。
一体何があったというのか。
どうしようもなく、立ち尽くす蓮二。
直後。
背後から音が聞こえた。
コンクリートにライフル弾が突き刺さった音が。
それが直撃していた未来が、蓮二の脳裏に浮かび上がる。もしそうだったのなら、今頃、糸の切れた操り人形のように地面へ横たわっていたに違いない。
「クソッ!」
死の淵に立たされた蓮二は、怯えるでもなく喚くでもなく、悪態をついた。
そして、走り出す。無論荷物は投げ捨てた。姿勢を低くし、全力で加速。
ひとまず向かうのは射線が切れるであろう場所。どこから飛んできたかはわからないが、何もしないよりはマシだろうと考えたのだった。
前方に路地が見えた。
迷わず入り込む。
そこで、蓮二は己の不幸を呪った。
「まずは、ナイスランとでも言っておこうか。蓮二君」
男の声だった。
無意識に足が止まる。
暗闇から現れたのは大柄の男。
闇に紛れ込むようなスーツを着ている。胸板の厚さや腕、足の太さから、相当屈強であることの予想がついた。
整えられた金髪。青い眼。
「我々にご同行願うよ。シュトラーフェのパイロット」
穏やかに、だが有無を言わさぬ迫力を持った声が蓮二に届く。射竦められたように固まる蓮二。
「……誰だ」
恐怖心を強引にねじ伏せ、意識して強く声を発する。足掻きのようなものだった。
「答える義務は無い」
その問いを微動だにせず跳ね返す。
ギリギリと蓮二の歯が擦れた。
逃げようにも、ここは細い路地。
前には大柄の男と他に二人。後ろも数人が配置され、どこにも逃げられない。
絶体絶命。
一話分の文量が少なくなってきてるのに今気づきました。まずいです。
これから書く文は少なくとも二千字以上にしたいと思います。




