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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第三章 Allies
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覇道と王道

 

「あの、来る時間間違えました?」

「いや、指定時間の五分前だ。何も問題はない」

 蓮二が西馬にそんな質問をしたのは、二人の他に誰も居ないからである。

 二人は東京の中でも一番の高さを誇る複合通信塔の展望台に居た。夜という事もあり、人もそこそこに多い。

「どういう事ですか?」

 蓮二は胡乱な眼差しを向けた。

「君には予定時刻の三十分前に来てもらったんだ」

 夜景を見つめていた西馬は、蓮二に正面を向く。

「君に一つ話をしておきたかった。これから戦っていく上で、知っておいて欲しい事だ」

「はあ」

 蓮二はなんとも言えないような返事をした。



  * * *



「王道と覇道の違いを君は知っているかね?」

 西馬はゆっくりと語り出す。

「いいえ」

「どちらも古い中国の言葉だがね。国を治める者の在り方を説いたものだ。

 王者というのは、勤勉で仁に厚く、力を(おの)がために使わないという高潔な支配者の事だ。王道はその筋の事だな。

 覇者というのは、武力に物を言わせ、力によって全てを支配する者の事だ。ただ、それは悪ではない。義を重んじ、周囲を従わせる。

 その二つが対立することはない。両立も出来る。

 これからの君は、どの道にでも進むことが出来るんだ。力を存分に使って覇道に進む事も、道徳心を以って王道に進む事も、両方を取る事もできる。

 私は、君が何を選ぼうと尊重はしよう」

 一呼吸置く。

「ただ、そう言ったあり方があることを知って欲しい。君に何を選んでほしいだとか、そういうことを言うつもりもない」

 西馬の表情は最後まで、今までのどんなそれよりも真剣だった。

「なるほど……」

 これまでそういったことを考えたことがなかった蓮二の頭の中で、西馬の言葉はぐるぐると回った。

「それを踏まえて、だ」

 さらに西馬は言葉を重ねる。

「君は今までのやり方で、平和を勝ち取ることができると思っているか?」


 ――その言葉は、再び蓮二の心へ突き刺さった。

「前も同じようなこと言ってましたね」

「ああ。前のは前置きだったが、今回は質問だ」

 厳とした声で西馬は言った。

「今すぐに戦争をやめさせるようなやり方では、恒久的平和は得られない」

「わかってはいるつもりです」

「それならまだいい」

 蓮二は俯き、ぽつりとこぼす。

「わかってはいますけど、具体的に何をすればいいのかわからなくて」

「まあ、そうだろうな」

 今まで正眼に蓮二を見据えていた西馬は、目を泳がせた。そして、何かを見つけると、顔をほころばせた。

「その答えはこれから出る。楽しみにしておくといい」

 時計を確認すると、十九時丁度である。

 西馬の視線が飛ぶ方へ向くと、こちらに歩いてくる数人の団体がいた。

 皆等しく目を鋭く尖らせており、独特の雰囲気をまとっている。



  * * *



 一行はエレベーターで上へと登っていく。一般用の展望フロアを二つ超え、さらに登る。関係者のみ入れるような場所へ突入していた。

 西馬が言うには、通信塔管理部に知人がいるらしく、特別に入る許可をもらったそうだ。

 それにしても、なぜこのような場所を選んだのだろうか。

 蓮二の思考を無視して、エレベーターは一団をぐいぐいと押し上げていく。


 程なくして、エレベーターは止まった。滑るように扉が開く。

「ここだ」

 西馬が言った。

 水族館のように外界と透明な樹脂で分かたれたその部屋には、長テーブルといくつかの椅子があるのみ。まるでこのために作られたような部屋である。

 誰も感想を口にすることなく、西馬に促されるまま席へ着いた。

 西馬は会議を仕切る役としていわゆる誕生日席へ。蓮二は重要人物としてその反対側へ座った。

「皆忙しいところを集まってもらい、とても嬉しく思う」

「御託はいいんでさっさと始めましょうよ西馬さん」

 西馬の言葉を遮るように、若い男が声を上げる。口調からして、西馬の知り合いのようだった。赤茶けた髪、耳に下がるピアス、奇抜な服装。チャラい、という形容詞がよく似合う男だ。

「お前は待ても出来ないのか。これから紹介だのなんだのしようというのに。何も知らない人間と会議などできるわけないだろう」

 西馬はその男の言い分をすっばりと切り捨てた。

「じゃあ自己紹介でもしちゃいましょうかね」

 小太りの男がため息をつきながら言う。

 皆自我が強い。各界の重鎮であろう西馬の知人が集まったこの場でも、なんの引けもとらずに佇んでいる。

 蓮二はその空気に押されるばかりだった。

こういうのを書くときに、知識って重要だなって思います。特に思想や政治体制なんかは役に立ちますね。

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