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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第三章 Allies
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President Adams

 

 アヴァロニア大統領、ジョージ・アダムスの心は晴れない。

 悩みのタネは太平洋戦線だ。太平洋一帯を制海権下に置けてはいるものの、そこから先が進まないのである。

 満を持して送り込んだパットンは不明機によって追い返された。島一つを犠牲に日本軍に大打撃を与えたものの、それ以上の戦果はない。これではせっかく扇動した民衆の気が削がれてしまう。

 ――東方侵略が順調なのがせめてもの救いだろうか。

 アヴァロニアはすでにアフリカを手中に収め、ヨーロッパへの橋頭堡(きょうとうほ)としているのだ。

 また、地中海を抑えたおかげで南部ヨーロッパの海路は全て封鎖している。陸路があるため大した経済的効果は得られていないが、一部の産業はかなりの痛手を被っているらしい。そして、上陸作戦を行う上で制海権は無くてはならないものだ。


 全てに通ずる問題は民意である。

 独裁的政治体制を敷いてはいるものの、国民が国民だ。今はうまく制御できているのでいいが、一度荒れ始めるとどうなるかわからない。暴動が起きるかクーデターが起きるか。

 アヴァロニアは多民族国家だ。異なるのは肌の色だけではない。

 宗教、倫理観、道徳、心理、思想。全てが人によって違うと言っても過言ではない。これだけ多種多様な人種をまとめるのは骨が折れる。


 人を一つにするのは「被害者意識」、「仮想敵」、「宗教」の三つだ。

 国内の多岐にわたる宗教ではある程度はまとめられても一つには出来ない。

 ここで重要なのは被害者意識と仮想敵である。

 数年前、アヴァロニアは不況だった。通貨レートは下がり、株も下がり、地価や賃金も下がる。その上物価は上昇。世界的な恐慌の寸前である。

 こういったものは、大抵一個人や一団体の責任ではない。

 だが、アダムスはそれを使った。

 国内に増え始めたアフリカ系移民。それを悪役に仕立て上げるのだ。

「彼らは国内の秩序を乱し、経済を停滞させ、我が国を貶めようとしている」と。

 巧みな情報戦略は国民をいとも容易くまとめ上げた。報道は統制され、誰かが真実を口にしようものならIGAを走らせる。

 そのような公には決して言えない策略を駆使してアダムスはアヴァロニアを強靭な国家へと押し上げた。

 国際社会での信用は地に落ちたが、そもそも信用される相手が居ないなら関係がない。そういう考え方だ。

 ここで勢いが止まるようでは、好戦的な民衆の考えが変わるかもしれない上、現在では足並みの揃わない残された国々全てを一度に相手取り、戦わねばならない。

 要するに、ここで多くの国を従えられなければアヴァロニアは事実上負けなのである。

 ところが極東情勢は不安定。


 アジアはフロンティアだ。

 東南アジアには未開のジャングル、化石燃料やゴム、人的資源が山のようにある。中東には膨大な石油が存在する。

 近年では中国がそれらの利益を貪っており、古い国体ながらもその力を留めている。東洋の眠れる獅子と呼ばれたいつかを思い出すものだ。

 その資源が豊富なアジアを攻略する前線基地の候補として、アヴァロニアは日本を選んだ。日本とアヴァロニアを隔てるのは広い太平洋のみ。さらにはその太平洋のほぼ全てを勢力下に置いている。

 日本を取れるのは確実と思われた。

 だが、現状は予想通りにはならなかったのだ。

 これではアジア諸国へ行っていた根回しや裏工作が全ておじゃんである。


 ――レームダックにはなりたくないと心底思うアダムス。

 居ても立っても居られなくなったアダムスはIGA長官、ヘルムズを呼び出した。



  * * *



「お呼びでしょうか」

 すぐに出頭したヘルムズはホワイトパレスを牛耳る男の前に立った。

「アジアはどうなっている」

「どう……とは?」

 ヘルムズはこの男が嫌いである。大統領になるやいなや強行政策を取り、独裁的な政治体制を作り上げた。その全てが気にくわない。

「情勢は、何が起こっているのかとか聞いているんだ」

 腹立たしげに問いを繰り返すアダムス。

「我が軍は日本から全面撤退しました。日本軍戦力を三分の二ほどに減らしていますが島一つを犠牲にしています」

「そんなことはわかっている」

「それ以外では特にありませんが」

 ヘルムズの耳に舌打ちの音が届く。

「ならいい」

「ああ、言い忘れておりました」

「なんだ」

 アダムスの顔はすでに紅潮し始めている。怒りからくる高血圧だろうか。ヘルムズは内心ほくそ笑む。

「日本軍内部に何が動きがあります。どうなるかはわかりませんが」

「信頼できる情報なのか?」

「はい。工作員に接触した何者かからの情報だそうで、裏は取れています」

 逡巡の後、アダムスは口を開く。

「わかった。情報共有を密に、正確性には細心の注意を払え」

「承知しました」


新章開幕直後なのに主人公サイドから離れてるのは大丈夫なのかと自問自答した日々もありました。きっと大丈夫という結論に至った次第です。

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