東京湾航空戦 五編 Winners Losers
弾かれた曲刀は、舞うように空へ放物線を描いて海へと落ちていった。
月光は得物を失くした。
無論、それ以外にも武装はあるが、シュトラーフェと互角に交えられるものは無い。
大地の負けだった。
彼は自分の死を覚悟した。ここでむざむざと斬られても文句は言えない。負けたのは自分なのだから。
操縦桿から手を離し、五体をコックピットへ投げ出す。そして瞑目した。
――しかし、いくら待っても何も起こらない。
不思議に思い、ゆっくりと目を開く。
その時すでにシュトラーフェは居なかった。
つまりは、命を助けられたのだ。
「こういう時は、敵ながらあっぱれ、って言えばいいんだったか?」
大地は薄く笑った。
* * *
その頃シュトラーフェは、途中参戦した守ら月光の支援に入っていた。
その集団に戦術的優位があっても、個人の力量では差があった。その差がじわじわと優位を崩そうとしているのだ。事実、何機か墜とされ始めていた。
蓮二としては、ようやく出来た味方になり得る集団を失うのは避けたい。だがそれ以上に守の知人が死ぬ様をただ黙って見ていることが出来なかった。
「強くなったな」
守がそう蓮二に言った。
「シュトラーフェのおかげだよ」
つまらなさそうに返事をする蓮二。
「いいや、お前は自分で強くなった。精神力とかも、諸々な」
「そ、そうか」
「そうだぞ。大人しく褒められやがれ」
「……おう」
なんとも煮え切らない返答をした。
実際、蓮二は自分が強くなったとは思っていない。こうして戦えるのは圧倒的な性能を持つシュトラーフェがいるからだと信じていた。
だが、確かに蓮二が成長したのも事実である。
「それと、お前が赤城産業の傘下に入ってるのは知ってるぞ」
「赤城産業?なんだそれ」
「又の名を富士川重工」
「……お前がなんでそれを」
蓮二は警戒した。いくら親友とは言え、そこまでバレているのはまずい。
「大丈夫だ。知ってるのは俺の他反戦派の一部の人間だけ。安心してくれ」
「いや、安心できないから」
「証拠としては……蓮二はウチが何の拠り所もなく所属している日本軍に叛旗を翻すと思ってるのか?」
「……なるほど」
まさか後ろ盾のことが知られているとは、蓮二は思いもしなかった。そしてその情報力に舌を巻いた。
「そういうこと。端的に言えば、これから反戦派はお前の味方ってことだ」
数にして五十以上。戦術機大隊にも匹敵する規模の味方ができるのだ。蓮二にとってはとても心強かった。
* * *
「蓮二、また違う通信が入ったぞ。おそらくそいつの上官だ」
シュトラーフェが唐突にそう伝えて来た。
「わかった。悪いな守。お前の上司と大事なお話があるから切るぞ」
哀れな守である。
「おう。……ん?そこに誰かいるの――」
蓮二はシュトラーフェの声が聞こえたのだろう守を無視して通信を切った。
「――……君が播磨君だね。私は暫定的な主導者を務めている長谷 嘉大だ。守から噂はかねがね聞いているよ」
彼はスピーカー越しに紳士のような丁寧な挨拶をした。
「どうも」
蓮二は相手との距離感を測るために短く済ませる。
「そろそろ退きたいのだが、手伝ってくれるかね」
「もちろんです」
「恥を忍んで頼む。殿をお願いしたい」
厚顔無恥と言えばそれまでだが、戦術的には良い判断だ。
現在の全戦力の中で、シュトラーフェは突出した性能を有している。攻撃力は無論、速力もだ。
長谷率いる部隊が使用している機体は月光。第四師団も月光とあれば、速度で引き離すことは不可能に等しい。
となれば、単機でも月光の集団を御することが出来、余裕を持って月光を引き離す速力を持つシュトラーフェが殿を務めるのは必然と言えよう。
大地の機が戦闘不能の上、頭数が減っている今、第四師団の戦力も落ちているため、先ほどのようなピンチにはならないだろう。無論蓮二と大地が戦い、大地が敗れた事など二人が知る由もないが。
「構いませんよ」
「有難い。では一三五五に、我々は一斉に状況を終了し全力で撤退する。……よろしく頼む」
長谷の口調は重かった。
「わかりました」
ここで通信は切れた。
「大丈夫なのか?」
途端にシュトラーフェがそう聞いてきた。
「わからないけど、俺がやるのが一番安全だろうからな」
「身の程を弁えてるならいい」
「お厳しい」
やけに厳しいシュトラーフェである。単純に言葉選びに問題があるのかもしれないが。
「そろそろ時間だぞ」
注意喚起するように彼女は言う。
「おう、わかってる」
操縦桿を握りなおし、前をぐいと見据える。
月光の一団が身を翻し、撤退が始まる。
少々遅れました。
最近ブクマも増えてきて嬉しいです。




