東京湾航空戦 二編 月光乱舞
相手の力を見定めたらしい牛島は、一瞬怯んだシュトラーフェから距離を取る。
「パイロットは未熟だが、機体性能はとんでもないな。久々に楽しくなりそうだ」
牛島が駆る月光が握るのは、三日月のような剣ではなく緩く反りの入った刀。
それを下段に構えシュトラーフェへと機を寄せる。
シュトラーフェは直剣を構える。受ける姿勢だ。逃げるという選択肢は無いらしい。
にじり寄る月光。
そして間合いに入った瞬間、下段から刀が抜き放たれた。
速度はそれほどでもない。だが気を抜けばシュトラーフェに十分なダメージが入るスピードだ。月光の限界なのだろうか。その太刀筋に合わせ、当たるような場所に剣を置こうとした。
だが、一瞬動作が遅れた。
なんとか機体に当たるギリギリのところで刀を止めることができた。紙一重であった。
そのまま力任せに弾く。
その瞬間にシュトラーフェは機体を捻り、持ち前のスピードを以って大きく距離を取った。
「蓮二、落ち着け!」
シュトラーフェのコックピット内には彼女の声が響く。そのおかげで蓮二は我に帰ることができた。
「あ、ああ……」
本来月光の攻撃は受けずに逃げるのが得策であった。それでもそれを選べなかったのは視野狭窄と焦りのせいだろうか。
そして、受けの動作が遅れたのは関節機構の問題だった。通常ならばその程度で遅れを取る事はない。だが牛島はその関節の構造を読み、それが障害となりうる角度から打ち込みをしたのだ。
――とてつもない技量だった。
蓮二の強さの一端を担っていたのは、彼我の圧倒的な性能差による自信だった。彼が少しばかり下手であろうが勝ち得たのは、ひとえにシュトラーフェのおかげである。
だが、今回ばかりは様子が違う。
敵機は以前となんら変わらない月光。だが、パイロットの腕は段違い。その技術で機体スペックの差を埋めている。
蓮二が初めて対峙した優秀なパイロットであった。自分の技術レベルの低さを痛感したのだった。
「私も補助する。なんとか勝って」
「……努力する」
蓮二は頼りなさそうに返事をした。
* * *
シュトラーフェは数多くの月光を相手にし、なんとか凌いでいた。
どのパイロットも曲者揃い。その中でも指揮官機を含んだ六機は飛び抜けて強い。いくらシュトラーフェであっても次第に押され始めていた。
「そろそろ決めに行きますかね姐さん」
「姐さんと呼ぶなクソ大地。すりおろすぞ」
「掛け合い漫才してる暇があったら真面目にやれ若造共」
そんな会話をしているのは牛島が直々に率いる小隊。大地も所属している隊だ。
そしてその二人に混ざる紅一点、塩見 百合音大尉。名前に似合わぬ鋭い目つきに短く切りそろえた黒髪で、周囲からは悪鬼羅刹として親しまれている。
そのように言われるのは、大地を筆頭に周囲が塩見をおちょくった結果壮絶な反撃を受けたからである。
普通ならば師団長が前線に出張ることなどないのだが、牛島は例外である。
弱冠42歳にして中将に任ぜられている上、いまだに現役の搭乗員として活躍しているのだ。彼に勝てるパイロットは日本軍の中でも一握りしかいないだろう。
そして大地は言わずもがな、塩見も牛島に肉迫するような強いパイロットだった。
その三人がここで"そろそろ決めに行く"と言ったのならば、自ずとその意味もわかる。
三機はそれぞれの方向に散らばる。
シュトラーフェはちょうど月光の攻撃を退けたところだった。
「行くぞ」
牛島の一声。
「了解」
「了解」
三人はタイミングを揃え、操縦桿を前に倒そうとした――
その時、指揮官機に逼迫した様子の無線が入った。
「救援を要請します!何者かから我々が攻撃を受けています!敵機は……月光です!」
戦況把握のために離して配置してあった機からである。
「どういうことだ!」
全く想定していなかった事態に牛島は声を荒らげた。
「わかりません!至急救援をお願いします!」
全く読めない状況。思わず牛島は舌打ちをした。
戦闘シーン描くの楽しいです。
筆の進みが早く感じる次第です。




