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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第二章 決別 敵と味方
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青風会

 

「本当に、そうなるんでしょうか」

 広い日本庭園。静けさに満ち、ししおどしが時折それを断ち切る。傾いた夕陽が木々を橙色に染め上げる。だが、その静寂を打ち破るように深刻そうな声が響いていた。

 そして、その庭園に面した縁側へ座る、二つの影。

「ああ、間違いない」

 その男の疑いに、しわがれた声がゆっくりと応える。

「息子は暫く前から悪い友達とつるんでいるようでな。近いうちに家を出るだろう。きっと(わし)には止められんだろうな」

 ――曲がった背中。傍に置いてある杖。

 歩く事で精一杯の体は、まだ働き盛りの歳と言える息子を制する力は残っていない。仕事を息子に譲ってから、もう十年以上経っているのだ。


「儂が死んだ時は、孫をよろしく頼む」

 その老人は、ニヤリと笑って言った。

「のう……西馬よ」



  * * *



 話し終わり、苦笑いして頰をかいた西馬。その優しげな目を、守は親眼差しのように感じた。自分のではなく、蓮二の、である。

 守にとっては、そう表現するのが一番しっくりきたのだろう。

「ところで、なんでこの話を私に?」

 しばらくの疑問だったことを守は口にした。

「いや、なんとなく、な。潮時のような気がしたんだ」

「は、はぁ……」

 いまいち要領を得ない回答に、守は曖昧な返事をした。

「ひとまず、心に留めておきます」

「ありがとう。それともう一つ」

「まだ何かあるんですか?」

 思わず聞き返してしまった。

「ああ。君にはある会合に私と出席してもらいたい。詳しくは言えないが」

 西馬は含みを持たせて言った。ここでは言えないということだろうか。西馬の事だから、危険なものではないのだろう。

「君も賛同してくれると思うぞ」

「はあ、わかりました」



  * * *



 二人の姿は首都近郊、なんの変哲も無い小綺麗な坂道の半ばに店を構える、ある料亭の前にあった。佇まいはいかにも老舗といった印象。明かりのついた看板が辺りを朧げに照らしている。

 西馬の行きつけなのだろう。扉を開けると出迎えた女将に彼は会釈をする。すぐに通された。案内された先は店の最奥であろう大部屋のようだった。

 襖が開かれると、室内からの強い光が網膜を焼く。

 並べられた長テーブル。そこに座る人々。守は、その中の幾人かに見覚えがあった。それも、軍施設の中でである。ここにいるのは皆軍人ということだろうか。

 端に座っていた一人が西馬に声をかける。

「そいつが例のヤツですかい、元帥閣下」

「私は大将だ。……まあ、そういうことだ」

 そう返すと、西馬は守を所謂(いわゆる)お誕生日席に座らせ、自分はその横に立った。その時、ガヤガヤと騒いでいた軍人達が一斉に静まる。

「皆よく集まってくれた。我々の会合もこれで……何回めだったかな」

「16回めであります」

 座っていた一人から声があがった。

「そうか、16回めか。もうこんなにやっていたとはな」

「感慨に浸るのはまだ早いですよ、元帥」

 別の一人が揶揄するように言う。

「うるせえ俺は大将だ」

 周囲からどっと笑い声が響いた。

「……そんなことはどうでも良いとして、今回私は客人を連れてきた」

 西馬に促され、立ち上がる。

「第三師団所属、伊上 守准尉です!」

 そう言って守は一礼をした。辺りからは人を見極めるような目や、試すような眼差しが守に突き刺さる。

「こいつはあのシュトラーフェと親友の仲だ。それに、ちゃんと使える」

 西馬がそう言った時、全員の目の色が変わった。考える目をしたり、ヒソヒソと話をしていたりする。

 やがて、西馬に視線が集まった。

「いいかな。ではひとまず食事にしよう。会議はそれからだ」



  * * *



 多くの視線から解放された守は、西馬に疑問をぶつける。

「この集まりって、一体何なんですか?」

「数年前に私が立ち上げた、厭戦派将校を集めた会だ。一応"青風会"という名前でやっている」

 少しばかり自慢げに言う西馬。

 ここに集まっているのは、大将である西馬を筆頭に、中将から下士官に至るまで結構な人数だ。

 改めて守は驚愕した。

 同時に、嬉しくもあった。

 ――守も本当は戦いたくないのだ。軍部にこういった勢力があるのは喜ばしい事だった。

実は会の名前は私の好きな作品から拝借したものだったりします。

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