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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第二章 決別 敵と味方
25/74

伝播

 

 守はその日、師団司令部にて令状を受け取った。


『拡張戦術機軍 伊上 守 上等兵

  本日を以って 准尉を命ず』


 簡単に言えば、昇進の令状である。守は西馬の計らいで、下士官からのスタートではなく最初から上等兵であった。

 そして、日本奪還作戦において、上等兵には釣り合わない程の多大な戦果を挙げた守は、とんでもない勢いで昇進したのだ。具体的に言えば、四つの階級を飛ばした。

 これも西馬の計らいなのだろうか、と勘ぐる守。だが考えても答えが出るはずはなく、ひとまずこの事実に向き合う事とした。


 ――実際、この人事には西馬の強い推薦があったのである。

 人事部は特に理由の説明もなく、命令を受けた。初めから昇進させるつもりではあったが、流石に四つ飛び級なんてものではない。セオリー通り一段ずつ、飛ばすとしても一階級だった。

 人事部は渋々西馬の命令に従ったのだ。



  * * *



 沢山の兵が通っていく廊下を、守は令状を携えて歩いていた。来た時もそうだったが、普段よりもやけに騒がしい。

「……何かあったのか……?」

 訝しげに首をかしげる守。ついつい気になり、統合作戦室へ歩を向けてしまった。本来はそんな手軽に行く場所ではないのだが。


 衛兵に聞いたところ、今西馬は不在なようだった。その代わり、西馬の私室を教えてくれた。西馬の教え子のように捉えられているのだろうか、と守はついつい勘繰る。


 部屋の前に着いた守は早速ノックをする。

「入れ」

 そう短く聞こえた。扉を押し開ける。

「お、守か。どうした」

 西馬が人の良さそうな表情で守の方へ向いた。

「やけに辺りが騒がしいんですけど、何かあったんですか?」

 その言葉を聞いて西馬は、一瞬躊躇うようなそぶりを見せたが、すぐに話し出した。

「ああ、それはな――」

 西馬は第二師団に起きた事の仔細を守に聞かせた。第二師団が総司令の極秘命令で出撃したこと。出港直後、たった二機の襲撃を受けて壊滅したこと。

 聞いていくうちに、守の顔色はだんだんと悪くなっていく。


「――シュトラーフェ――」


 その言葉が守の耳に届いた時、その表情は大きく変わった。苦悶、驚愕、悲哀、それとも歓喜だろうか。様々な感情が入り乱れる。真意がまったく読めない。

「――こんな所だ。何か質問はあるかね?」

 一通り話し終えた西馬は軽く溜息をつき、置いてあった緑茶を音を立てて一口飲んだ。コーヒーではないところが西馬らしい。

「播磨、ですか」

 守はぽつりとこぼした。

「そうだ。それともう一機だが……恐らく暮那だろうな」

 守の心中は複雑だった。

 親友がやりたい事を出来ている嬉しさ。日本と敵対するやるせなさ。二人でさらなる遠くへ行ってしまった悲しさ。

「そうですか……」

 守はそれしか言えなかった。どういう反応をしていいのか分からなかった。

「失礼します」

 そう言うと、部屋を出て行った。

 その様子を西馬は物憂げな目付きで見送った。



  * * *



 守は急な昇進で過ごしづらい日々を送っていた。周りにいるのは皆自分よりいくつか年上。その上大した面識もない。さらには以前、日本奪還作戦時の小隊長よりも階級が上になってしまった。とてもやりづらいのだ。


 以前西馬の私室を訪れてから数日。今度は西馬に呼び出された。場所はいつもの屋上である。

「君に話しておきたいことがある」

 守が来るなり西馬はそう言った。

「はい、なんでしょう」

「これから話すことは、誰にも口外するな。上官だろうと、播磨や暮那だろうと、だ」

 その真剣な様子に、守は思わず姿勢を正した。

「わかりました」

 一呼吸おき、西馬は口を開く。湿気を孕んだ柔らかな風が二人の頰を撫でた。


「これは、播磨 蓮二という一人の子の話だ」

守回でございます。

会話など日常シーンが多くなる守側のお話はちょっと退屈になってしまいそうですが、お付き合いください。

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