東京湾空戦
「これより我々は総司令の極秘命令によって、独立して作戦行動を取る」
第一師団壊滅から数週間。第二師団長の東条中将が師団全員に向け話をしている。
「なお、今回出向という形で第四師団から応援が来ている」
傍に控えていた兵達が一歩進み出る。
――その中に、大地の姿があった。
「本作戦の目標は、マーカス島の偵察及びウェーク島の攻略だ」
* * *
第二師団と第四師団の数名を乗せた空母 玄龍が横須賀港を出た。勿論、周囲には護衛艦を引き連れている。
意気揚々と東京湾を出んとする艦隊。彼らには、やけに海が青く感じられた。
その時、玄龍の通信員がこちらにコンタクトを取ろうとする電波をキャッチした。異様に感じたその通信員は艦長の許可を得てその通信を艦橋全体に繋ぐ。
「あなた方の目的は、ウェーク島の占領ですね?」
唐突に艦橋へ響いたその音声。
東条は絶句した。
なぜなら、極秘命令であり、殆どの者が知らされていない作戦目的が割れていたからだ。
「貴様、何者だ」
注意を払い、怒気を孕んだ声音で訊く。
「……シュトラーフェ」
東条は再び絶句した。
日本奪還作戦の立役者。それがいなければ、我々は負けていたとも言われる機。軍の支配下から脱走したという報告は聞いていたものの、まさかここに現れるとは思っていなかったのだ。
「何の真似だ」
「私は、戦争を許容しない。あなた方を止めに来た」
彼の言葉を聞きながら、東条は考えた。
いくら強力であっても、数の前にはひれ伏すに違いない。ならば、ここで撃破できるはずだ、と。ある噂によれば、総司令を脅してから軍を離れたと言う。逃すわけにはいかない。
残念ながら、東条はそれがやられ役の思考だとは気が付いていない。
「それならば、我々は押し通るのみ」
そう言うと、月光へ発艦待機命令を出した。飛行甲板に並べられているわけではなかったが、格納庫からでも直接飛び立つことは可能だ。その準備をするのである。
そして突如、進む艦隊を塞ぐように、前方に何かが現れた。数は二つ。なぜかレーダーには映っていない。艦長は目を剥いた。
望遠鏡で見ると、一つは白く光る拡張戦術機だ。シュトラーフェに違いない。
だが、もう一つは全く見覚えがない。
――真っ赤な機。所々、黒く縁取られている。紅蓮の焔を体現したような姿だ。
「なんだ、あれは!」
東条は声を荒らげる。だが、答える者はいない。誰もわからないのだ。
「月光を出せ!あいつらをどかすんだ!」
命令が伝わる。
発艦準備の終わった月光が、次々と飛び出していく。百以上いる彼らは、その二機へと驀進した。
「残念です」
艦橋のスピーカーから、そう声が聞こえた。
* * *
その真っ赤な機は、"試式拡張戦術機 桜花"。富士川重工の技術が結集した機体だ。装甲を減らし、攻撃と機動性に重点を置いてある。その運動性能は月光を優に超える。
その分、扱いが難しい。
押し寄せる月光を相手に、ピクリとも動かないシュトラーフェと桜花。遂に先頭である数機の月光が二機に到達しようかという所で、その二機は姿を消した。
その後に残るのは爆風。二機は一瞬にして、一度に数機を薙いだのだった。
月光に備わっている脱出装置の作動を確認する蓮二。これならば、いくらでも暴れられる。
二人は敵中へ突っ込んだ。
* * *
シュトラーフェは常軌を逸したスピードとマニューバで次々と月光を墜としていく。機を横に滑らせ、物凄い速さで身を翻し、月光を悠々と置いていくスピードを出す。圧倒的な戦力差だ。
蓮二が近距離を得意としていたことも相まって、唯一無二の強さを誇っていた。
結も、一対多数で善戦していた。
シュトラーフェほどではないものの、着実にその装備された短刀のような二つの武装で一機一機撃破する。その機体特性である攻撃力と機動性を巧みに操っていた。
――戦場に響き渡る轟音。
その音は、桜花が止められた音だった。
止めたのは、一機の月光。
他の月光とは異なった動きを見せるそれは、見事に桜花の一撃を受け止めたのだ。
「驚異的な性能だが、パイロットは大したことないんじゃねえのか?」
パイロットは平間 大地、その人だ。
そして、月光の一閃。桜花を弾き返した。
「くっ!」
思わず悔しさが出る結。だが、すぐに吐き捨てる。
間合いを一気に詰めた結は、攻めた。攻め続けた。装甲の薄いこの機体では、月光の攻撃は受け止められないと踏んだのだ。
一撃一撃は着実に当たっているものの、三日月のような刃にいなされかわされ、有効な攻撃が出来ていなかった。
「決め切れない!」
思わず、結は一度間合いを取った。
大地の月光は所々に傷を負っているものの、致命傷にはなっていない。
「次こそは!」
結は短刀を構え、突貫。
右に持ったそれを振りかぶる。受け流す姿勢をとる月光。
だが、これはブラフ。本命は、左に持った短刀。振りかぶった右をそのまま後ろに引き、代わりに左を前に出す。そのままの構えならば、間に合わないはずだ。
――だが、返ってくるのは装甲を貫いた手応えではなく、もっと硬いもの。その円のような形をした刃が、短刀をしっかりと捉えていた。
「甘い」
止められたことに驚き隙を見せた桜花は切られた。
機体は持ったものの、空力機構にダメージを負ったのか、海へと真っ逆さまに落ちていった。
だんだんと速度を増し、海面へと近づく。結は茫然自失状態だ。
それに気づいた蓮二とシュトラーフェが、振り払った月光を置いて結を助けんと空を駆け抜ける。桜花を海面の直前でなんとか掴んだ。
「戦闘続行は不可能だな」
そう判断した蓮二は、すぐに目にも追えない速度で戦場を立ち去った。
「蓮二……ごめん……」
結は、しばらく悔しそうにしていた。
日本軍の損害は、空母に搭載されていた月光138機中、73機。過半数が、あの二機に破壊された。
その結果、ウェーク島侵攻作戦は頓挫した。
戦闘の描写をもっと長くした方がいいのか悩み中です。




