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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第二章 決別 敵と味方
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葛藤の蓮二

 

 その知らせは、歓喜に沸いていた司令部の人々を地の底へ叩き落とした。

 無論、精神的な影響だけではない。

 第一師団と言えば、使途が限られる遊特戦を除いて日本最高の戦力を持った師団である。拡張戦術機部隊において、単純計算で四分の一。能力も鑑みればそれ以上の損失だ。

 今後の戦略大綱にも大きな影響を及ぼすことは間違いない。


 日本軍はこの損害をひた隠しにした。

 憲法の穴を使い、報道統制を実施。マーカス島攻略自体がなかったことにされた。

 ――だが、噂とは漏れるもの。

 日本軍第一師団が壊滅した、という噂は水面下で広がっていった。さらに、噂は第三者を通して肥大化するものだ。『師団一つが壊滅した』から、『日本軍が壊滅的被害を受けた』まで大きくなった。

 無論、表立ってのことではない。

 だが、水面下で着実に国民へと広がっていった。


 国民の戦意は下がっていった。

 冷静に考えれば、今ここでアヴァロニアへ攻め込むメリットは少ない。むしろデメリットの方が大きい。

 戦争で最も被害を受けるのは、政府でも国家でもなく国民なのだ。

 戦争によって人が死ねば、その分誰かが駆り出される事になる。例えそれが一家の大黒柱であろうと、将来を有望視された学徒であろうと。

 軍に志願する者も多くいるが、数が少なくなれば徴兵が行われる可能性もないとは言えないのだ。

 徴兵によって働き手を失う家庭、企業。有能な人材を失う研究施設。どちらも国にとって大きな損失である。

 人は紙切れで召集できる。だが、それがもたらす経済的被害は甚大なのだ。

 それも手伝ってか、多くの民衆は戦争を望まなくなった。


 また、その噂によって日本国内では遂に反戦勢力が芽を吹く。彼等は団体を組織し、着実に力を付けていった。

 ――いずれ、日本を揺るがす勢力となり得るのだろうか。



  * * *



 蓮二は富士川の拠点へと帰っていた。

 誰とも話さずに、真っ直ぐベッドへ倒れ込んだ。

 シュトラーフェや結は心配していたが、とても声がかけられる雰囲気ではなかった。

 しばらくベッドに倒れ伏していた蓮二はふと起き上がると、部屋を出てゆっくりと歩き出した。

 向かうのは外。廃墟街。

 夜だった。あたりは一つの明かりもない。星明かりも、月明かりもない、暗い空間。

 蓮二は、何もせず、立ち尽くしていた。

「播磨さん、ですね」

 ふと、背後から声がかかる。

 振り向いても、暗くてよく見えないが、声からして草鹿だろう。

「日本軍を止められなかったそうですね」

 蓮二は歯を食いしばった。自分のやった事は自分でわかっている。だが、誰かに言われると、苦しかった。

 悔しい。

 自分は何もできない。

 そういった思いが蓮二を埋め尽くした。


「今の自分が大切にしている事、思い。それと、過去の自分が大切にしていた事。あなたは、どちらを選びますか」


 唐突に、草鹿はそう訊いた。その問いには、何の悪意も害意も込められていなかった。

 その事に気づいた蓮二は、真剣に考え込む。

 今自分が大切にしている事、思い。

 それはシュトラーフェと結、戦争を無くすという決意のことを言っているのだろう。

 過去の自分が大切にしていた事。

 それは、日本、過去の友人達。守を過去とみなすのは(いささ)か無理があるかもしれないが、きっとそうだ。


 どちらを選ぶか。


 幾度も幾度も、蓮二は思索を巡らせた。



  * * *



 部屋へ戻ると、結が待っていてくれた。目の周りには擦ったような跡がある。

「次は絶対、私も行くから」

 じっと蓮二を見つめている結は震える声で、そう呟いた。

「蓮二一人に……背負わせたりなんて、しないから」

 自責の念がだんだんとこもっていくように感じられる。結の目には二度目であろう涙が溜まっていた。

「……ごめんね」

 最後にそう言うと、結は泣き出してしまった。

「ありがとう」

 蓮二は安心させるように力強く答えた。

「もう、逃げないよ」

今後しばらくは上手く時間が確保できないので、投稿間隔が開きます。

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