鬩ぎ合い
――シュトラーフェが止まった。
先ほどまでの勢いが嘘のように。
ぴたりと、空中で止まった。
「蓮二!一体何をして……」
不審に思ったシュトラーフェが、自分を止めた蓮二を咎めようと彼の方へ向く。
だが、何も言えなかった。
――蓮二は俯いて、涙を流していたのだ。
泣き声をあげているわけではない。嘆いているわけでもない。
ただ、歯を食いしばって涙を流していた。
それは、"もしも友達を殺してしまったら"という恐怖からの涙か。その恐怖によって止まってしまった自分を悔いての涙か。
シュトラーフェには、わからなかった。動けなかった。
シュトラーフェの先では月光が編隊を組み、飛んでいく。
ただそれを眺めていた。
* * *
「この戦いに、これからの日本の趨勢がかかっている!各員奮励努力せよ!」
師団長 高峯中将は愛機を駆り、部下を先導する。襲うはマーカス島アヴァロニア軍基地。一個師団を使うには小さな島だが、初戦と言うのは勢いを決める大事な要素だ。否が応でも勝っておきたい。
すでに戦闘攻撃機 屠龍によってレーダーサイトや主要施設は無力化されていた。
「突入!」
一定高度を保って飛行していた月光は、一気に高度を下げる。月光は島に降り立ち、次々と要衝を制圧していった。抵抗はほぼ無く、不審に思えるほど。
不思議なほどに戦闘は早く終わった。
この戦果の報は、瞬く間に軍部内で広まった。至る所で歓声が上がる。完全に祝勝ムードだ。
だがその中で、西馬の顔は浮かない。
報告を聞いていた彼は、違和感を覚えていた。特に何の抵抗もなく、占領されたと言う。日本に最も近いアヴァロニアの前線基地だと言うのに、だ。
それに加え、オスカーと呼ばれるアヴァロニアの主力MFSが一機も無かったのだ。
何かあると考えて間違いない。
だが、何がある。
西馬は自分の脳に暗示をかけるように考える。脳をフル回転させる。
まず考えられるのは、戦略からこの島をとらせる必要があった、と言う可能性。だが、それは今すぐに対処しなければならない、と言うわけにはならない。
考えられるのは、島への誘い込み。
そして、誘い込んでやるものは、一つしかない。
「高峯!部隊を撤収させろ!早く!」
「え、何を言って………………」
――――通信はそこで途絶える。
* * *
マーカス島は大爆発を起こした。
アヴァロニア軍が、あらかじめ埋めておいた爆薬に点火したのだろう。そう考えると、抵抗がほぼ無かったのも頷ける。
この、島一つを使った罠によって、第一師団は壊滅し、高峯中将は戦死。島に降り立っていた部隊は全滅。付近に滞空していた部隊も、多大な被害を被った。
西馬の心中には、自責の念が蔓延していた。
もう少し伝えるのが早ければ。もっと自分が早く気付けていれば。
いつもそうだった。例えそれが自分が考えた作戦でなくても、自分が少しでも口出しをし、それが失敗すると、彼は必ず自分の責任を追及した。
だがそれもひととき。
自分の精神をすぐに立て直した。これが、西馬を名将たらしめるものだ。
西馬は顔をしかめて舌打ちをした。
蓮二の心の動きをシミュレートするのが楽しかったりします。




