慟哭の結
色々台無しであるが、結は混乱していた。
「よく知らないけど、シュトラーフェって人になれるんだ。そう言うことなんで」
「貴方の適応能力って意外と凄いのね……」
今度はやつれ始めた。目まぐるしく表情が変わるその姿は実に面白い。
「はあ、とりあえず落ち着けたわ。よろしくね、シュトラーフェちゃん」
「よろしく、ゆい……結……さん?」
シュトラーフェも困惑していた。蓮二以外の人と関わった事がない彼女には、上手い距離の取り方がわからないのだろう。仕方がない。
「結でいいよ」
「じゃあ、結、で」
「それにしても、綺麗な顔してるわね……。それに赤い目!私と同じね!」
ベタベタとシュトラーフェに触る結は実に楽しそうだ。見ていて微笑ましい。一方蓮二はその勢いに押されている。
「同じで、良いことはあるのか?」
シュトラーフェは困り顔だ。
「連帯感が生まれるじゃない!」
「連帯感……なるほど……」
押されっぱなしなのはシュトラーフェも同様だった。それでも、どこか楽しそうだ。
「蓮二は仲間外れね」
――いきなり結の矛先が変わり、思わぬ奇襲を食らった蓮二であった。
* * *
煌煌と輝く光が二人の体を朧げに照らす。
「彼等はどうでしたか?」
先程まで蓮二と結が居た部屋。草鹿 志之は宇垣に問うた。
「まだわからん。ただ、なかなかやれそうじゃないか。与えた部屋の監視カメラがどうやってか壊されたからな」
宇垣は執務机の椅子にどっかりと座りながら、スラックスのポケットに入れてある寄れたカートンからタバコを取り出した。内ポケットから出したライターの蓋を親指で弾き、火をつける。
「タバコ逆ですよ」
草鹿がそう言った瞬間、タバコのフィルター部に火が灯った。
「うわっ」
思わず宇垣は灰皿に投げ込んでしまった。咳払いを一つ。再び同じようにタバコを取り出し、今度は間違えないように火をつけた。
「場合によっては、報告しなければならないな。我々を脅かしかねない」
「そう、ですか」
宇垣には、草鹿が肩を落としているようにも見えた。
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもないです。それでは」
そう言って、草鹿は部屋を後にした。
* * *
部屋から怒声にも似た声が聞こえてくる。
「私はマスターである蓮二の物。だから、蓮二と同じベッドで寝ても何も問題はないはず」
「蓮二のである前に女の子でしょ!女の子が男の子と同衾するのはアウトなの!」
「私は人間ではない」
「見た目も機能も今は人間でしょうが!」
シュトラーフェの為の寝具一式が用意されていなかった為、このような論争が起きている。
言葉の応酬が止まらない。蓮二は辟易していた。さっきからずっとこの調子である。耐え切れず、遂にそそくさと体をかがめて部屋から出て行こうとする蓮二。
しかし、扉の前に着いたと思うと、目の前に結が立ちはだかった。
「どこへ行く気なのかな?」
――笑顔だが、目だけが笑っていない。はっきり言って怖い顔である。
「ちょっと厠に……」
「今までトイレを"厠"なんて表現して来なかったわよね?」
「アッハイ失礼しました」
「どこに逃げる気?」
「いえだから厠に」
意味のない問答を繰り返していると、扉がゆっくりと開かれた。
現れたのは、草鹿だった。
こちらを見て、目をまん丸くしている。
「し、失礼しました」
そう言って扉を閉めようとした。だが、蓮二が食い下がる。扉を両手でがっちりと掴んだ。
「草鹿さん助けて!」
「逃がさないわよ蓮二!」
草鹿は盛大なため息をついた。
* * *
草鹿を部屋に迎え入れ、蓮二と結を加えた三人で向き合っていた。
「それで、何の痴話喧嘩ですか?」
草鹿は瞑目しながらそう聞いた。
「ち、痴話喧嘩なんかじゃないですよ!」
「ええ、違います」
蓮二がきっぱりと否定した時、結は何か言いたげだったが、気にしないでおいた。
「はいはい……それで、何なんですか」
草鹿はとても面倒臭そうだ。哀れなものである。
「年頃の男女が同衾するのは良くないと思うんですが」
結は赤面しながらそう聞いた。
「どうでもよくないですか」
草鹿の目から段々と生気が抜けて行く。
「どうでもよくないんです!だって付き合ってるわけでもないのにもう……」
「どうでもよくないですか」
遂に草鹿の表情が抜け落ちた。
今回はだいぶネタに走りました。後悔はしていない。
だいぶギスギスしたりシリアスな物語なのでたまにはガス抜きも必要かと思ってネタ回をぶち込みました。後悔はしていない。




