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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第二章 決別 敵と味方
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選択肢

 

 結局、結とシュトラーフェが同じ布団で寝る、という結論に落ち着いた。それならさっさとそうしてくれればよかったのに、と蓮二は思った。疲れているのだ。


 外の様子がわからないため、時間感覚がなくなってしまいそうである。窓がないというのは少し残念だ。

 時計を見ると、時刻は二十三時。時々誰かの話し声のようなものが聞こえたりするが、辺りは軒並静かだった。

 蓮二はうとうとし始める。布団にくるまっていれば当たり前のことだ。

 遂に睡魔に飲み込まれゆく蓮二。抗うことなく、の心地よさに身を任せる。

 ついに眠りに落ちようかというその時。蓮二は掛け布団が退けられた感覚のせいで、引き戻されてしまった。

 そして次に来るのは、ベッドが沈んだような感触。これはなんだろうか。

 つい、体をよじる。

 ――すると、何かに触れた。

 ふにふにと柔らかい。心地よい暖かさを感じる。それに、とても滑らかだ。

 違和を感じた蓮二は、重い重い瞼を開いた。


 そこには、シュトラーフェが横たわっていた。

 それも、顔は数センチしか離れていない。長く、整った睫毛が数えられそうなほどに近い。幸い目は開いておらず、こちらを見てはいない。だが、近すぎる。

 銀色の艶やかな髪が辺りに散り、呼吸と同調して揺れ動いていた。

 蓮二の鼓動は速くなっていく。目の前に、絶世の美女と言っても過言ではない女の子がいるのだ。当然だろう。普段から見てはいるものの、ここまでの近さで観察したことはなかった。

 整った鼻筋。紅い唇。艶やかな肌。

 月明かりが無くとも、その美しさは圧倒的ですらあった。

 つい、蓮二は手を布団から抜き出し、頰に触れた。


 なんとも言えない感覚。弾力があり、柔らかく、そして絹のような滑らかさ。

 そして、なぜかそこで我に帰った蓮二は、自分のした事に動揺した。そのせいで、明け方まで蓮二が眠りにつくことはなかった。


 ――翌朝、二人揃って結にこってり絞られたのは自明のことである。



  * * *



 一方、伊上 守は絶句していた。

 起きてみれば、長い付き合いの小隊員とその機が無くなっているのだから当然とも言える。おまけに結が機を盗んで逃げたせいで、連帯責任やら監督責任やらで守の所属する小隊及び中隊はてんやわんやだ。

 更にはシュトラーフェがその逃走を手助けしたとかいう報告もあり、守の胃には穴が開きそうである。

「なんでこんなことになってるんだ……意味がわからない」

 人の心情というものに鈍感な守は、結の心の機微に気付いてはいなかった。その為、驚きも大きい。

 唸り、ため息をつき、気落ちしながら司令部の廊下を歩いていた。

「お、伊上じゃないか」

 声のした方へ振り返る。声を掛けてきたのは西馬だった。

「どうも、こんにちは」

「丁度いい。来てくれないか」

「ええ、構いませんが」

 歩き出した西馬に遅れないよう、守は付いていった。




 二人が来たのは屋上。ここからは、司令部基地一帯が見回せる。管制塔、滑走路、格納庫など、仰々しく建物が並んでいる。

 西馬は屋上の端まであるき、策に肘をついた。

「播磨と暮那だがな。……日本軍を離れた」

「やっぱり、そうだったんですね」

 薄々気がついてはいたのだ。

 蓮二は戦争を無くすと言っていた。これは、一国家機関に属していては、成すことはできない事だ。それならば、日本軍を抜けるのは必然だろう。

 だが、結はなんなんだろうか。

「暮那は、なんで行ったんでしょうか」

 守は心の中にあった疑問を口にした。

「さあ、わからんが。大体予想はつく」

「なぜですか!?」

「……他の全てを投げ打っても良いほどに、好きだったのかもしれんな」

 空を見つめて話す西馬の姿は、哀愁を漂わせていた。

「全然、気付きませんでした」

 鈍感な守は心の機微に気付けない。心情の変化がわからない。

 守は再び俯いた。置いて行かれた気分になったからだった。守は寂しかった。この短期間に、二人もの親友と離れる事になったのだ。

「行きたいか」

 西馬が守の思いを汲み取ってか、そう呟いた。相変わらず空を見つめたままだ。

「行きたいですけど……俺は軍人です。それに、二人ほど自分の意志が強くありません」

 守は俯いたまま、手を握り締めていた。

「君の好きなようにしなさい。ここにいるでも、友のもとに向かうでも」

 西馬は朗らかに笑ってそう言った。

 守は西馬の懐の広さに感銘を受けた。自分が属する軍の兵が、出て行こうかと迷っているところを止めないのだ。

 優しい人だと思った。

 西馬は話を全て終えたのか、戻っていく。

 守はしばらくそこに立っていた。



  * * *



 翌日。

 西馬は統合作戦室にて思案顔で立っている。これからの展望を考えているのか、軍の改革案を考えているのか、それとも今日の昼ご飯を考えているのか。

 そこへ、一人の来客があった。守だ。

「今よろしいですか」

 その表情は寝不足からかどんよりとしている。考え込んで眠れなかったのだろうか。

「ああ、いいぞ」


 二人は再び屋上へと登った。

 昨日より風が強い。建物が高いため、風は二人にごうごうと吹き付ける。

「あの、昨日一晩考えて決めたんですけど」

 守は西馬をじっと見据えて話し始めた。

「俺、日本軍に残ります」

 まごつく事なく、はっきりと言い切った。守の意識の表れだろうか。

「それならそれでいい。好きにやりなさい。……後悔しないように」

 西馬の、自由にさせるスタンスは変わらない。西馬は上司ではなく人として、守に好きな事をして欲しかった。それは、一人の男に大事な物を失わせたことの贖罪かもしれない。

 だがその言葉は、守の心を強くした。

シュトラーフェ、綺麗にしてみました

自分では満足しています。

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