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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第二章 決別 敵と味方
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憂鬱のアヴァロニア

 

 パットンは日本を離れ、太平洋を越え、母国へと帰ってきた。見送りは勇壮な軍歌だったが、出迎えは兵達の渋い顔。パットンはおくびにも出さなかったが、内心ではイライラしている。

 ひさびさに祖国の地を踏んだ彼だったが、そこはホームでありながらアウェイであった。


 アヴァロニア帝国は世界に覇を唱える強大な国だ。すでに大陸二つを支配下に収め、多方面に侵略の手を伸ばしている。その勢いはとどまる事を知らない。

 いや、知らなかった。

 日本に退けられた今、西進は止まっている。これは失態である。戦略的な面でも、政治的な面でも、だ。現在、帝国は独裁政権下にあるため、こういった戦局は政治にまで影響してくる。




 独裁とは必ずしも避けるべき事とは限らない。過去、独裁者が国民を扇動し、戦争へと駆り立て、残虐の限りを尽くした例もある。だが、それはあくまでも一側面だ。読者諸兄にも知っている者が居るだろうが、現代にも独裁国家は存在する。

 シンガポールやサウジアラビアなどがその良い例だ。

 シンガポールの政治体制は一党優位と呼ばれる。与党である第1党が政治を行う。野党も存在こそ許されてはいるものの、国政に対する影響力は無いと言っていい。

 サウジアラビアは、王族が政治を執り行う絶対君主制国家である。政府の要職も王族に占められている。




 アヴァロニアもこういった独裁を上手く活用した国家だ。国家を強靭なものとする為大統領による独裁政権を敷き、富国強兵政策を実施。満を持して他国への侵攻を開始した。

 有資源国家を占領し、アヴァロニアはさらに軍備の増強を図る。世界一とも言える軍事力を手に入れたアヴァロニアは、さらなる侵略へと足を踏み出した。

 そして、今に至る。



  * * *



 日本方面軍総司令は憂鬱である。罷免されるのやら、略式裁判にかけられるのやら、気が気でない。

 怪異的ですらあるあの白い機体に関する報告書を提出してはいるが、まともに取り合ってくれるかどうかすら怪しいのだ。一笑に付されるかもしれない。

 だがそれは仕方ないとも言える。我が軍の新鋭機をバタバタと落とす機体があるとは、世界最大の工業国を自負するアヴァロニアには耐え難い事だろう。


 ――パットンは自室の椅子に座って大きくため息をついた。

 すると、唐突に部屋がノックされた。

「入っていいぞ」

 扉が開かれる。入って来たのは彼の部下である参謀の一人だった。

「あの、様子はどうですか?」

「やはり信じ難いようだ。一部はオスカーの強さを盲信しているからな。圧倒的な能力差があるとは到底思えんのだろう」

 パットンは目を押さえ、再びため息をついた。

「そう、ですか……」

 参謀は肩を落とした。彼は言わばパットンの生徒だ。畏敬の念は大きい。そのパットンのこの先が危ういとなれば、動揺するのも当然だ。

「我が軍も改革が必要だと思い始めたが……敗戦の将が何を言っても聞くまいな」

「悔しいですが、そうかと」

 今一度、パットンはため息をついた。



  * * *



 幸運と言えるのかはわからないが、パットンは罷免や訴追を逃れることができた。今回は負けたものの、パットンに変わる人材が確保出来ないのだろう。軍規模の人数を指揮するのは簡単なことではない。


 パットンは、執務室に諜報機関であるIGA―Information Gathering Association―の長を呼んだ。

「君には調べてもらいたいことがある」

 パットンがそう言うと、局長であるウィリアム・ヘルムズは一瞬顔を歪めた。

「私の部下を何に使うおつもりですか?犬死はさせたくないのですが」

 いちいちムカつくやつだ、とパットンは思った。なんとか抑えて話を続ける。

「私が日本戦線で敗退したのは一機の不明機が原因なんだが、それについて調べてもらいたい」

「敗戦の責任逃れの次は言い訳探しですか?」

 ヘルムズは露骨に顔をしかめた。パットンは首を飛ばしてやりたいところだったが、所属と命令系統が違うためどうにもできない。

「好きで逃れた訳ではない、と言っておく。それで不明機だが、調べればわかる。我が国を揺るがしかねない兵器だ」

「単一兵器に国を滅ぼす力があるとは思えませんが……まあいいでしょう」

 渋々といった様相ではあるが、なんとか漕ぎ着けられた。

「今集まってる情報はどの程度ですか?」

「名前はシュトラーフェと言うそうだ。オスカーで敵軍学校を威力偵察した際に突然現れた。直前に訓練生とみられるうちの一人がいきなり消えたことから、それと関連がある可能性も考えられる。以上だ」

「それだけですか」

 いちいち嫌味を混ぜるヘルムズに、パットンは憤る寸前である。

「君達ならこれ以上の情報を得られるだろうよ。得られなかったらこの国に諜報機関は要らんな」

「それは体制批判とも取れますね。よく覚えておきます」

 ヘルムズは帰り際にそう言い残した。パットンは彼が出て行ったドアに向け、大きく舌打ちをした。



  * * *



 依頼を請け負ったIGAは、早速日本に駐在させている工作員に情報収集の命令を出した。IGAの局員達は、皆選りすぐりのエリートである。国家公務員試験の中でも最高峰の難易度とも言われる試験を突破しているのだ。

 さらに、そこから想像を絶するような体力、精神両面での訓練を経ることで、ようやく局員として認められる。


 だが、その彼らを以ってしてもシュトラーフェに関する情報はあまり得られない。ヘルムズは苛立ち、困惑していた。

 確認できたのは、シュトラーフェの圧倒的な戦闘力、それが日本軍の管轄ではないということだけだった。

 唯一と言ってもこれはなかなか有益な情報である。必ずしも日本軍の味方をする訳ではないとわかった時点でアヴァロニア軍としては安心できる。


 ――ならば、シュトラーフェに直接接触を試みるのも手だろう。

 ヘルムズは手配を始めた。

今回はパットンの回です。アヴァロニアも脇役というわけではないので、多面的な視点で物語を書いていきます。

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