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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第二章 決別 敵と味方
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逃避行

 

「私、家族もいないし、友達も二人しかいないし……二人ともどっか行っちゃいそうだし……軍にはもう、いたくない!」


「……すまないが、それは出来ない」

 感情の昂ぶる結に、優しくゆっくりと蓮二は話しかける。

「俺は、誰も助けてくれない、周りの全てが敵になるかもしれない戦場に行くんだ。君は連れていけない……すまない」

 蓮二は、ギリッと歯嚙みをした。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「どうして……そんなの、わかってるのに……」

 結の目からは涙がこぼれ落ちる。それは寂しさからか、悔しさからか、わからない。

「……居場所……ないんだよ……」

 そう、涙声を絞り出して言った。

「……すまない」

 蓮二は溢れそうになる涙を必死にこらえた。彼女にこんな姿は見せたくなかった。

 結は追いかけて来た。だが、蓮二はゆっくりと速度を上げる。月光はだんだんと引き離されて行く。二人の間を雨が降る。

 ――もう後ろは見ないつもりだった。


「悪いが追手だ。こっちに来る前に向こうに食いつく」

 シュトラーフェが深刻な表情でそう言った。

 レーダーを見ると、六機が結に迫っていた。蓮二は様子を見る。

「通信に入り込めるか」

 涙を強引に封じ込めてシュトラーフェに訊く。

「大丈夫だ。流すぞ」

 一瞬のノイズの後、音声が流れ出す。

「貴様、協力者か!何にせよ、勝手に戦術機を発進させたことは軍規違反にあたる。直ちに降りろ。さもなくば、墜とす!」

 一気に速度が落ちていた結の月光に詰め寄る。

「ひっ……うぅ……」


 ――蓮二は迷った。

 助けに行くのか、置いて去るか。

 歯をくいしばる。どうすればいい。

 去れば、結は軍事法廷で裁かれる。いや、その前に機体ごと撃墜されるかもしれない。


「蓮二…………助けて」


 もう、何も失いたくなかった。

 答えは決まった。

「結ぃぃぃいいいいい!!!!」

 機を翻し、全速力で結のもとへ向かう。




「そういうところだぞ」

 統合作戦室に映し出されている映像を見て、西馬 源三は楽しそうに笑いながらそう呟いた。




 一瞬にして音速の壁を超えたシュトラーフェは、結に斬りかかろうとする一機の月光を一閃にて両断した。

 間髪入れず、想像を絶する機動ですぐに別の機の裏を取る。そして、横薙ぎの一刀。

 まるで、周囲が止まっているかのようにシュトラーフェは空を駆け回る。

 ――その姿は一つの演舞のように美しかった。



  * * *



「蓮二……ありがとう……」

 今度は別の涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら結は話す。

「その、なんだ。なんか、ごめんな」

 蓮二は居た堪れず、謝った。

「ううん……大丈夫だよ」

 結は嬉しそうに笑った。涙を吹き飛ばすような笑顔。蓮二は引き込まれそうになる。

「これで、私ももう戻れないね」

 その笑顔のまま、結は楽しそうにそう言った。軍学校でいつも見ていた、輝いた笑顔の結だ。どこか、懐かしく感じられた。それほど月日が経っていたわけでもないのに。

「ああ。一緒に、行くか」

「うん!」

 二機は楽しそうに暗雲の中を行く。


 二人は、この混沌の世界に何をもたらすのだろうか。



  * * *



 もし世界の命運と言うものがあるなら、それは一体誰が握っているのだろうか。

 神か。悪魔か。あるいは、人間か。


 人間が握っている、と言うのはいささか傲慢(ごうまん)だろう。我々がいくら科学を発展させたところで、自然災害一つ防げないのだから。


 であれば、神や悪魔が握っているとでも言うのだろうか。

 それならば、世界はもっと優しいものや、醜いものとなっているだろう。


 ならば、誰がそれを握っているのか、と。


 ――誰も握ってはいないのだ。


 手繰り寄せ、なんとかそれに抗おうと、必死にもがく人々がいる限り。


 誰も握ってはいけないのだ。

西馬の「そういうところだぞ」っていうセリフが個人的に大好きです。そういうところだぞ。

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