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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第二章 決別 敵と味方
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決裂

 

 結は一人、わけもなく司令部の廊下を歩いていた。第三師団は日本解放以降、司令部に駐屯する部隊となったからだ。

「はあ、私何もできてないな」

 虚空に向けてそう言った。守は大きな戦果をあげている。蓮二はもっとだ。自分だけ何もできていない、とまた自分を責めていた。

 大きくため息をつく。


 ――ふと視線を前に戻すと、見覚えのある人影が横切るのが見えた。

「……蓮二?」

 結は駆け出し、その人影を追った。敷かれている絨毯を踏み付けて走る。

 角を曲がり、その影を見た。しかし、見つけた時には、扉の奥へと行ってしまっていた。

 その扉の前には西馬が立っていることに結は気がつく。閉じられた扉の向こうを見ていた。

 結は思わず走り寄った。

「あの、今のって、蓮二……播磨ですよね」

 単刀直入に聞いた。

「ああ、そうだ」

 少し間をおいて西馬はゆっくりと頷いた。

「何かあったんですか?」

「総司令が彼を呼んでいてな。詳しくは私も知らんのだ。ただ……」

 西馬は一呼吸置いた。そしてゆっくりと言葉を連ねる。

「どうにも嫌な予感がする。君もここから離れた方がいい」

「……そうですか。わかりました」

 西馬は上官である。逆らうのは良いことではない。素直に結はその場を後にした。だが、その足は自分の部屋には向いていない。

 ――彼女はどこへ行くと言うのだろう。



  * * *



「御足労痛み入る」

 鮫島は蓮二に対し、一つの姿勢も表情も変えずにそう言った。よくも思っていないことを口にできるものだ、と蓮二は思った。

 この部屋は議場だった。中央に置かれた長テーブルの最奥に鮫島が座っている。それを囲うように、日本軍の重鎮達の姿があった。

 西馬がここに居ないのはなぜだろうか。

「そこに座りたまえ」

 もっとも出入り口に近い、鮫島のちょうど対面に位置する場所を指差しながらそう言った。逆らう意味も無いので大人しく座る。

「それで、用とはなんでしょうか」

 蓮二は警戒しながらゆっくりと喋る。


 唐突に鮫島が片手を上げた。

「単刀直入に言おう」

 ――途端、武装した兵士が入ってきた。物々しい雰囲気をまとった彼らは、走って蓮二の辺りを取り囲み、持っていた銃を蓮二に向けて構えた。

 ピリピリとした空気が辺りを包む。重鎮達の眼光も鋭い。

「君には日本軍の兵士として戦ってもらいたい」

 鮫島の狙いは蓮二の恭順だった。それも、脅してまでそれを求めた。その語気は鋭く、目は静かに、椅子に張り付けるように蓮二を射抜く。

 だが、蓮二は怯まない。

「報告は行っていると思いますが、私はどこかに属する気はありません」

 控える重鎮から疑問の声が上がる。それは鮫島の誘いを断ったことに対しての疑問なのか、この状況で断ることが出来ることに対しての疑問なのか。

「フン、戦争を止めるってのか。馬鹿らしい」

 鮫島は嘲り笑う。蓮二を睨んだまま。

「あなた方に理解してもらいたいとも思っていませんので」

「たった一人で何が出来る。それにな、我々は国の為に戦っているのだ。国を捨てようとしている貴様と違ってな」

 露骨に言葉で攻撃をする鮫島。だが蓮二の表情は動かない。

「……国に縋る、巣食うの間違いだろう」

 その言葉で、鮫島の眉間にはぎゅっと(しわ)が寄る。拳を握る力が一層強くなった。

 そして、突然気の抜けたようにそれらは消えた。


「撃て」


 議場に野太い声がよく響いた。

 銃を握る兵士たちの指が引き金に届く。

 ――蓮二の表情に変化はない。


 その時。

 天井が崩れ落ちた。

 それも、蓮二の周囲だけである。

 そこにいた兵士たちは落ちてきた天井の下敷きになった。穴の空いた天井から、強く降っている雨が室内に入り込む。


 瓦礫の中に佇むのは蓮二。

 そして、シュトラーフェだ。

 雨の衣を纏い、蓮二は口を開く。

「俺に危害を加えるつもりなら、容赦はしない。よく覚えておくように」

 あたりを、鋭い目付きでゆっくりと見回す。視界に入るのは、突然の出来事に慄く者ばかりだ。


「権力だけじゃ、何も守れねえよ」


 最後にそう言い放つと、シュトラーフェに乗り込んだ。

 ゆっくりと、滝のような雨の中を昇っていく。

 すぐにその姿は見えなくなった。



  * * *



 西馬から通信が入った時点で、こうなる事を予測していた蓮二はあらかじめ手を打っておいた。

 自分の意思を明確にする為。力を誇示する為だ。


「建物を壊してよかったのだろうか」

 シュトラーフェがそう言った。

「まあ、それで確たる意思を示せるなら幾らでも壊すさ」

 躊躇なくそれをやろうとする自分に、蓮二は苦笑いした。

「ちょっと待て。一機こちらに向かって来ている。おそらく月光だ」

 突然シュトラーフェから報告が入った。だが、たった一機。追撃にしては様子がおかしい。

「なんのつもりだ?」

 蓮二は訝しげにレーダーを睨む。

「オープンチャンネルで通信を飛ばして来た。どうしようか」

 次々となされる不可解な行動に蓮二は困惑していた。

「繋ごう」

 スクリーンが一瞬暗くなり、砂嵐とノイズからゆっくりと映像が映る。

「なっ!?お前!?」


 そこに映し出されたのは、

「蓮二!私も……私も連れてって!」

 悲痛な表情を浮かべた暮那 結だった。

遂に日本軍を飛び出した蓮二。物語の本編はここからと言っても過言ではないです。

これからの展開にご期待ください!

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