第七話 魔王勇者
満身創痍で撤退することに成功した調査隊も、残るは四人。
「あの魔物は魔王になるかもしれない」
隊長は苦しそうに息を吐きながら言った。
「この情報は王城まで持ち帰らなければならない。最悪、残り一人になっても絶対に帰還すること! では移動する!」
四人は互いに頷き合うと、振り返ることなく王城を目指した。
◇
先立って王城に到着した町の門兵により、国境近くの町の異変が報告された。
そして、しばらくして到着した若い調査隊員から、人型の魔物が現れ町が壊滅したことが報告される。さらに、他の調査隊員は自分と子供を逃がすため時間を稼ぐため現地に残り、その後の安否は分からないことも伝えられた。
王城には重苦しい空気が流れる。
◇
町に残された魔物は、すでに理性を失い、本能のまま行動していた。
路地に倒れる兎族の亡骸を見つけては喰らい、満腹になればその場で眠る。
それを何日も繰り返した。
やがて、喰らうたびに肉体へ新たな変化が現れ始める。
漆黒の体毛はさらに濃く長く伸び、筋肉は膨れ上がり、巨体へと変貌していく。
尾は太く長く伸び、耳は頭頂部へと移り、鼻先は前方へ突き出した。
口は大きく裂け、鋭い牙が並び、四肢は獣のように太く逞しく変化する。
そして、その肉体はついに人の面影を完全に失った。
そこに立っていたのは、全長約三メートル。
黒い体毛に覆われた、巨大な狸の姿をした魔王であった。
その顔には、目の周りを覆う黒い模様が浮かび上がり、獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべている。
かつて災賀翔と呼ばれた少年は、もうどこにもいなかった。
◇
異変の報告を受けた王は静かに立ち上がった。
「報告では人型の魔物と聞く」
「はっ」
「状況から判断するに、城で暴れた自称勇者である可能性が高い」
王は迷いなく命じる。
「至急、勇者四名に招集をかけよ」
「討伐隊を編成する」
「国民をこれ以上危険に晒すわけにはいかぬ。準備が整い次第、直ちに出兵する」
そして王は玉座から立ち上がり、力強く告げた。
「当然、我も行く!」




