第八話 勇者王
生き残った調査隊四人は、王都を目指して必死に馬を走らせていた。
あと少しで王都というところで、前方から大部隊が姿を現す。
三百名。
兎族が誇る精鋭による魔物討伐隊だった。
先頭では王旗が高々と掲げられ、その後方には王の乗る馬車が進んでいる。
報告を受けた王自らが出陣したのだ。
◇
馬車の中。
調査隊長は報告を行う。
「報告します!
調査隊十五名のうち、生存者は四名です。
なお、一名は子供一名を護衛し、先行して王都へ帰還しております」
一度息を整え、続ける。
「断定はできませんが、あの魔物は例の人族である可能性が高いと思われます。
姿形は大きく変貌しておりましたが、体格や立ち姿には面影がありました。
全身は黒く変色し、体毛は剣撃を弾くほど硬質化しております。
また、理性は感じられず、本能のまま獣のように行動しておりました」
隊長は悔しそうに拳を握る。
「撤退直前、好機を得て左目を潰すことには成功しております。
以上であります!」
王は静かに頷いた。
「よくぞ戻った。見事である」
その一言だけで、調査隊員たちの表情が少しだけ和らぐ。
「疲れているところ悪いが、一刻を争う。
窮屈だろうが馬車で休め。
あとは我が引き継ぐ」
王の声に、一同は力強く頭を下げた。
「はっ!」
◇
魔王と化した災賀翔は、まだ町の中にいた。
だが、いつ移動するかは分からない。
本能の赴くままに。
ただ、今はじっと眠っていた。
◇
魔物が暴れた町の外へ討伐隊が到着する。
まずは斥候を放つ。
居場所の確認。
しばらくして報告が上がる。
「人型は見当たりません。その代わり大型の獣が一匹居ます。約三メートルの狸型です。全体が黒っぽく、魔王の可能性が高いです」
「そうか……ならば勇者四人と我が出る!」
「いたずらに兵達を消耗するわけにはいかん」
「ただし、我らが倒れたら、その時は包囲し攻撃せよ!」
◇
「王よ。」
「まずは我ら四人が仕掛けます。」
「奴の動きと力を見極めてください。」
「……わかった。」
「決して無理はするな。」
「好機は我が逃さぬ。」
「左目は潰れている。」
「包囲し、死角を突け。」
「決して一人で戦うな。互いを援護せよ。」
「「「「はっ!」」」」
「では、参る!」
◇
魔王は町の中央付近、建物の影で眠っていた。
五人は静かに死角へ回り込み、息を合わせる。
互いに目配せを交わし、頃合いを見計らう。
そして――。
一人の勇者が駆け出し、全力で斬りかかった。
「グオオオオオ!!!」
大地を揺るがす咆哮とともに、巨大な獣が立ち上がる。
逆立つ黒い体毛。
岩をも砕きそうな牙。
喉を震わせ放たれた咆哮だけで空気が震え、五人は思わず後退る。
「散開!」
勇者たちは素早く包囲陣形を取る。
初撃で浅い傷を負わせることには成功した。
この世界の勇者は、業を積んだ者に対して絶大な効果を発揮する。
魔王は視界に入った勇者へ襲いかかる。
しかし勇者は紙一重でかわし、その隙に他の三人が死角から斬りつける。
少しずつ。
確実に。
魔王へ傷が蓄積していく。
順調に見えた戦況は、次の瞬間、一変した。
「グオオオオオオオオ!!!」
怒り狂った魔王が暴れ回る。
巨大な爪が地面を抉り、尻尾が建物を薙ぎ払う。
勇者たちは必死に避け続けるが、ついに包囲陣形が崩れた。
魔王はその隙を逃さない。
一人へ突進し、避けた瞬間に振り向きざま尻尾を叩きつけた。
勇者は大きく吹き飛ばされ、動けなくなる。
残る三人は互いに目を合わせ、静かに頷いた。
「行くぞ!」
「「おう!」」
決死の覚悟で三方向から同時に魔王の顔面へ飛びかかる。
狙うは右目。
魔王は一人、二人と爪で弾き飛ばす。
しかし三人目までは止められない。
大きく腕を振り回した反動で足を捻った。
体勢を崩したところに、
勇者の剣が右目へ深々と突き刺さる。
「王よ!」
叫ぶと同時に、魔王の爪が勇者の身体を貫く。
「天晴であった! 後は任せるが良い!」
王は両目を失った魔王の前へ歩み出た。
「魔王よ……。」
「我が名は、シン・トーヤマ・アルフォンス・ラビット・ラビィナ一世。」
「一代にして、このラビィナ王国を大国へと押し上げた建国の王である。」
「我が怒りと、国民の無念をその身に刻むが良い。」
言葉とともに闘気が王へ集まり、どんどん膨れ上がっていく。
闘気は限界まで高まり――。
黒いうさぎの身体は黄金色の輝きを放ち、弛んだ身体は戦士の肉体へと変貌した。
「うおおおぉおおおお!!」
王は咆哮する。
「これが!」
「我が全力全霊の一撃だ!」
「愛と! 哀しみと! 怒りを乗せた!」
「必殺!!」
「うさぎキッッッグゥウウウウ!!!」
「無に帰れえええええええ!!!!」
渾身の右拳が魔王の顔面へ叩き込まれる。
「ドゴォォオオオオオオーンン!!」
凄まじい衝撃とともに、魔王の上半身は吹き飛んだ。
こうして戦いは終わりを告げる。
多くの命は失われた。
それでも――王国には再び平和が訪れた。
◇
「……って夢を見たんで、文字に起こしてみたんだけど。」
「かなり殺伐としていますね。」
「あなたの作風には合っていないような気がします。」
「あと、うさぎが沢山死んでますけど、何とも思いませんでしたね。」
そう言い残し、編集者は部屋を後にした。
その背中を見送りながら、私は小さく呟く。
「……そういう感想ですか。」
「次は最初から容赦しませんよ、翔君。」
あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
お気づきの方もおられるかもしれませんが、この作品は『カチカチ山』をモチーフにしています。
他にもコメディやファンタジー作品を投稿しておりますので、もし興味を持っていただけましたら、ぜひそちらもお読みいただけると励みになります!
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!




