第六話 変身勇者
「残った奴は貧乏クジだ! 死ぬ気で足止めに専念しろ!」
「「「「おう!」」」」
調査隊は互いに目配せをする。
次の瞬間、一斉に黒い人型へ斬りかかった。
◇
この世界では、すべての行いに業が宿る。
善き行いは魂を清め、悪しき行いは魂を蝕む。
業を重ねた者は、やがて肉体に変化が現れる。
最初は髪や肌の色。
次は体格。
そして理性。
心優しい者であれば、善行を積むことで元へ戻ることもある。
しかし、一線を越えた者は違う。
肉体は魔物へと変貌し、理性を失い、やがて魔王となる。
それは、この世界の理であった。
◇
「腹減ったな」
確か、最後に立ち寄った町がこの辺だったはず。
翔は町を目指す。
しばらく歩くと馬車の中から見たことある門が見える。
「お、やっと町に着いたわ」
町が見えたことにより上機嫌になる翔。
門に辿り着くと門兵に止められる。
「止まれ!」
「お前は何の種族だ!」
行く手を遮られる。
「あ、ああん? 邪魔するな!」
一人の門兵を蹴り飛ばす翔。
そして、もう一人を鷲掴みにし、
「俺様に楯突くとはいい度胸だな」
顔の近くまで持ち上げて恫喝する。
すると、
クンクンと匂いを嗅いだ。
「お前、いい匂いがするな」
そのまま首元に齧り付く。
そして肉を引き千切る。
「うぎゃぁああ!」
悲鳴を挙げる門兵。
血が滴り落ちる。
その時、翔に変化が現れた。
浅黒かった肌が、みるみる漆黒へと染まっていく。
全身から黒い体毛が生え、人族の面影は急速に失われていく。
そして――。
翔の意識は闇へと沈んだ。
残ったのは、獣の本能だけだった。
◇
「魔物だ! 魔物が出たぞ!」
「門兵が殺られた! すぐに逃げろ!」
門兵が殺られる様を見ていた住人が騒ぎ出した。
住人はパニックである。
そこかしこに飛び出しては逃げ出した。
魔物は、ニヤニヤと笑っている。
動く物を甚振る猫の如く、飛び出した住人に襲いかかる。
狩りという名の遊びである。
路地には、死体が積み上がって行く。
悲鳴は町中へ広がり、人々は我先にと逃げ惑う。
だが、逃げ遅れた者から順に魔物の標的となり、町は瞬く間に地獄へと変わっていった。
そして、町の中央付近で子供を見つける。
襲いかかる魔物。
とっさに母親が子供を突き飛ばし、代わりに捕まれる。
「お母さん!」
そして、母親は強く振り回され、次第に動かなくなった。
◇
「諦めるな!」
「連携して隙を見逃すな!」
隊長は檄を飛ばす。
「「「「おう!」」」」
フェイントを交えながら、死角から切りつけて削って行くことに専念する調査隊。
だが、次第に一人、また一人と調査隊も削られて行く。
十四人いた調査隊も、今は八人まで数を減らしていた。
「グオオオオオ!!」
魔物の体毛に阻まれ、有効打を与えられずに人数を減らしていく。
それでも諦めない。
魔物の攻撃は兎族にとって一撃必殺である。
当たれば死につながる。
正に死闘であった。
魔物の攻撃をギリギリのところで躱し、幾度となく攻撃を加える。
そして、残り四人となったところで転機が現れた。
魔物が振り返り攻撃をした所で瓦礫に足を取られ、足を捻る。
体勢が崩れた。
「いまだ!」
隊長はその一瞬を逃さず、勢いよく飛び上がる。
全身全霊を込めた渾身の一撃。
剣先は魔物の左目を貫いた。
「グアアアアアアッ!!」
初めて魔物が苦痛の咆哮を上げる。
調査隊はすでに満身創痍である。
これ以上は無理と判断した隊長は叫んだ。
「一同、撤退!」
左目を失ったことで動きが悪くなった魔物は、調査隊を追いきれなかった。




