第五話 襲撃勇者
町の南門。
「なあ」
「おう」
「商人の連中、戻ってこないな」
「そうだな。かれこれ二十人くらいか、戻って来ないのは」
「探しに行った連中も帰ってこないし、王城に報告が必要な案件かもな」
「そうだな」
「お前、行ってきてくれよ」
「俺が?」
「お前、馬に乗れるだろ? 俺は乗れない」
「わかったよ」
◇
「おや? 何か来るな」
馬が一頭。
うさぎの門兵が乗っているようだ。
「止まれ!」
「急いでいるようだが、どこへ行く」
声を掛けてきたのは王城の兵士団。
王から派遣された調査隊だった。
「はい。この先の国境近くの町で門番をしております。隣国へ向かった商人たちが帰って来ないため、調査依頼を王城へ進言する途中です」
「ほう。どれくらいの数だ」
「かれこれ二十人を超えます。野盗やモンスターの仕業ではないかと思いまして」
「わかった。我らは別件で任務中だ。そのまま王城へ向かってくれ」
「わかりました」
門兵は一礼すると、馬を走らせた。
調査隊もまた、国境近くの町へ向けて歩みを進める。
◇
「うわー、最近ヒゲが生えたか。俺もそろそろ、そんな年頃だしな。というか俺ってやたら毛深いんだな」
顎を触りながら、一人ぼやく翔。
「肌の色もだんだん黒くなって来てるし、この世界は日焼け止めもないからな」
肌の色が変わってきたことにも嘆く。
ここのところ、獲物が通らないな。
そろそろ肉も食べたいし、来ないならこっちから行くとするかな。
そう呟くと、翔は町の方角へ歩き始めた。
◇
「そろそろ町に着くぞ」
調査隊が国境近くの町へ近づくと、何やら煙が立ち上っているのが見えた。
「何か様子がおかしいぞ。気を引き締めろ」
隊長の一声で、隊員たちは歩みを速める。
町へ入ると、目に映った景色は正に惨状だった。
そこかしこの建物から火の手が上がり、黒煙が空を覆っている。
路地には無惨な死体が転がり、町には生き物の気配すらほとんど残っていなかった。
そして、町の中央から子供の悲鳴が響く。
「いやああああ! お母さん!」
調査隊は一斉に駆け出した。
そこにいたのは、大きな黒い人型の何か。
その片手には、兎族の母親が力なく掴まれていた。
調査対象の人族が、これくらいだったか。
母親は、すでに動かなかった。
調査隊は迷わず剣を抜き、人型を取り囲む。
「グオオオオオオ!」
人型が咆哮する。
次の瞬間、拳を地面へ叩きつけた。
轟音とともに瓦礫が舞い上がり、大地が大きく揺れる。
隊長は冷静だった。
「一番若い奴! あの子供を連れて、お前だけで報告へ行け! 急げ!」
「了解!」
若い兵士は子供へ駆け寄る。
「そこの子供! 行くぞ!」
子供を肩へ担ぎ上げると、そのまま全力で駆け出した。
「いやあああ! お母さん! お母さん!」
泣き叫ぶ子供。
若い兵士は振り返らない。
「頼んだぞ……」
隊長は小さく呟く。
そして剣を構え直した。
「残った奴は貧乏クジだ! 死ぬ気で足止めに専念しろ!」
「「「「おう!」」」」




